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〔アナリストの目〕銀相場、最終的にフェアバリューに落ち着く=江守哲氏
<2021年2月5日>
2021/02/02 12:22
米国では非常に興味深いことが起きているようである。個人投資家による投機的な取引で、ヘッジファンドが締め上げられているという。真偽のほどは明らかではないが、時代の変化を感じる事象である。そして、その影響はコモディティー市場にまで広がってきているから驚きである。
事の発端は、インターネット交流サイト(SNS)で連携した個人投資家が、ヘッジファンドが空売りを行っている一部銘柄を標的に買いをあおり、ヘッジファンドに損失を与えようというものだったようである。結果的に一部のヘッジファンドは手じまいを強いられ、巨額の損失を出したとも報じられている。ゲームソフト販売大手銘柄などを対象に、個人投資家たちは結託し、その対象銘柄が乱高下するなど、過去に見たことがないようなことが起きている。これもSNSのすごさと言えるだろう。
このような動きもあり、先週末の米国株は大きく急落したとされている。投機的な動きにより、相場が荒い値動きを示すとの懸念が台頭し、リスク回避の動きが強まったことも投資家の手じまい売りを誘ったとの見方もある。ソーシャルメディアのチャットルームに掲載された情報などを元に、一部の銘柄に個人投資家から大量の買いが入り、株価が急騰するということが実際に起きる時代になったということである。このような取引は非常に危険である。つまり、買いが買いを呼び、健全な水準を大幅に超えて価格が押し上げられるからである。こうなると、いずれ市場は大きく崩れることになる。
◇上昇に拍車かかることも
一方、株式市場だけでは飽き足らなかったのか、投機の対象は銀市場にまで及んでいる。その結果、1日の銀相場(現物)は3日続伸した。一時11.2%上昇し、約8年ぶりの高値を付けている。個人投資家の関心が、ソーシャルメディアでの書き込みを通じ急騰した一部の株式銘柄から銀に移ったことが背景にあるとみられている。その結果、銀相場は一時13年2月以来の高値となる30.03ドルを付けている。銀相場は1月28日以来、19%上昇も上昇したことになる。
SNSでは、個人投資家に対して産銀株と銀上場投資信託(ETF)の裏付けとなる銀現物の購入を推奨する書き込みが広がったようである。ソーシャルメディアの書き込みを受けた動きはまだ初期段階で、この先どの程度弾みがつくのかは不透明な情勢にあるとの指摘がある。また、銀市場のファンダメンタルズが良好なことから、投資家が新たに参加すれば、銀相場はさらに押し上げられる可能性があるとの指摘もある。
最大の銀ETFであるiシェアーズ・シルバー・トラストのデータによると、銀保有は28~29日だけで3700万口増加したという。日本の純銀上場投資信託も11%上昇している。そして、個人投資家による投機的な取引は株式市場にも広がり、鉱山開発企業なども買われている。ヘクラ・マイニングは27.8%高、ファースト・マジェスティック・シルバーは22.1%高、クール・マイニングは23.0%高へ急騰した。
投機マネーが短期的に銀市場に押しかけているのが現状である。しかし、銀市場はコモディティー市場の中でも相対的に値動きの激しさは知られたところであり、投機筋が好んで賭ける傾向がある。また、流動性は他のコモディティーに比べると相対的に低いこともあり、値動きが激しくなりやすい傾向がある。今回のようなことが起きれば、銀相場は短期間で大きく動きやすいとも言える。
今回の上昇で、過去平均から上方乖離(かいり)していた金・銀レシオは大きく改善し、過去平均に戻してきた。逆にこのまま銀市場に資金が入り続けると、今度は逆に過去平均を下回ることも想定される。つまり、金に対する銀の相対的価値が高まる状況が起きるということである。過去の金・銀レシオの最大値から判断すると、金相場が1850ドルで変動しないと仮定した場合、銀相場は50ドル前後にまで上昇できることになる。実際にそうなるかは分からないが、そのような論調が広がり、銀相場の上昇に拍車が掛かることも想定される。
◇乱高下に相当の注意必要
しかし、このような状況は健全ではないことは明白である。ヘッジファンドの業界団体は、「過去1週間に見られたことは、市場機能と価格決定の大幅な歪曲(わいきょく)につながったゲームだった」とし、一部のヘッジファンドが損失を被ったことについて、規制当局の調査に協力すると表明している。
また、米証券取引委員会(SEC)は、一部銘柄の株価乱高下に関して、取引状況などを調査するとの声明を出している。声明は「極端に大きな株価変動は、投資家を急速に深刻な損失のリスクにさらし、市場の信頼を傷つける可能性がある」と指摘し、過熱する取引をけん制している。さらに、米政界では、与野党から取引停止を批判する声が上がっている。
今回の騒動の結末がどのようなものになるかは予断を許さないが、明確なことは、常識的に見て行き過ぎた相場はいずれ調整されるということである。今回の騒動で投機的取引の対象になった株式銘柄は、いずれ放置され、無視されていくだろう。しかし、銀はコモディティーであり、実需がある。また現物資産でもあることから、最終的にはフェアバリューに落ち着いていくだろう。ただし、その間の乱高下には相当の注意が必要である。現在の市場に飛び込むのであれば、確固たる資金管理の体制を整えた上で、相当の勇気をもって臨むべきである。(了)
※江守 哲(えもり・てつ)氏 エモリファンドマネジメント代表