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〔潮流底流〕地銀再編、本格始動=コロナ禍、地域疲弊に危機感―公的資金返済も圧力
<2021年5月21日>
2021/05/14 21:17
地方銀行の再編が本格的に動きだした。背景にあるのは、長引く低金利と人口減少による経営体力の低下に加え、新型コロナウイルスの感染拡大で地域経済が一段と疲弊していることへの危機感だ。過去に注入された公的資金の返済期限が迫っていることも圧力となり、各行はライバル行との統合や異業種との連携で生き残る道を模索している。
◇交錯する期待と不安
「切磋琢磨(せっさたくま)してきた両行が志をひとつにして一歩を踏み出せた」。14日、長年のライバルであるみちのく銀行<8350>との経営統合で基本合意した青森銀行<8342>の成田晋頭取。記者会見で統合の意義を強調すると、みちのく銀の藤沢貴之頭取も「地域経済がさらに厳しくなっても地域を支える力強い銀行が必要だ」と応じた。
地域経済の縮小が両行の決断を後押しした。青森県は全国的に見ても少子高齢化による人口減少が進み、好調だった国内外からの観光客もコロナ禍で大幅に減少。景気の冷え込みが一段と増しており、企業を支える力を強めるためには銀行自体の財務基盤の強化が不可欠だった。
ライバル2行の統合に対し、青森県信用保証協会首脳は「英断だ」と歓迎。事業者からも「経営基盤の強化で中小・小規模事業者への融資や経営支援が促進されると期待したい」(青森県商工会連合会首脳)との声が上がる。
もっとも、地元では不安も交錯する。青森市で飲食店を営む男性は、融資方針の異なる2行の統合で「今後融資を受けられなくなるのではないか」と漏らす。両行が統合効果を目に見える形で地域貢献につなげていけるかが問われる。
◇迫る返済期限
14日には、福井銀行<8362>も福邦銀行の子会社化で同行と最終合意。筑波銀行<8338>は、「地銀連合構想」を掲げるインターネット金融大手SBIホールディングス<8473>との資本提携を発表した。
福井銀の林正博頭取は「経営基盤が強くならないと地域貢献ができない」と強調。筑波銀の生田雅彦頭取も「地銀連合に入りたいわけではない。顧客のためだ」と説明した。いずれも、キーワードは地元企業や地域経済の再生だ。
一方で、みちのく銀、福邦銀、筑波銀にはいずれも公的資金が注入されている。公的資金は期限までに返済しないと国の関与が強まるため、自主経営を維持するには収益力の強化が不可欠。みちのく銀と福邦銀は返済期限が2024年に迫っている。
ただ、3行の中で返済への道筋を示しているのは、福井銀による増資を前提に60億円の公的資金を前倒し返済する福邦銀のみ。みちのく銀と筑波銀は公的資金返済を再編の目的とはしていないが、自力返済には統合や異業種連携などを通じたコスト削減と収益力強化が求められている。
地銀再編をめぐっては、菅義偉首相が就任前の昨年9月、「(地銀は)数が多すぎる」と発言。呼応するように金融庁や日銀は合併や経営統合などを支援する制度を導入、地銀が再編に踏み出しやすい環境づくりは進んでいる。低金利や人口減少、コロナ禍による地域経済の疲弊、公的資金の返済期限。地銀を取り巻く厳しい環境は多くが共通しており、今後も再編の動きが加速する可能性がある。(了)