サンプル(過去記事より)
トランプ関税で最も大きな打撃を受ける業界は
企業業績や株価に打撃となる可能性大
すべて実施されれば1934年以来の高関税に

トランプ次期大統領は、就任式当日(1月20日)の大統領令を皮切りに、数十年ぶりとなる大規模な関税改革を実施すると公約している。経済界は大統領選でトランプ氏をおおむね支持したが、この改革は多くの米国企業に多大な犠牲を強いる可能性がある。
選挙戦中、トランプ氏は中国からの輸入品に対する関税を60%に引き上げ、その他のすべての国からの輸入品には一律10%の関税を課すと公約していた。選挙後には、メキシコとカナダに25%の関税を課すつもりだと述べ、12月下旬には、欧州連合(EU)加盟国が米国産の石油やガスの購入を拡大し、米国の「膨大な」対EU貿易赤字を削減しなければ、EUに関税を課すと脅した。ワシントンのシンクタンク、タックス・ファンデーションの推計によれば、これらの関税がすべて導入された場合、輸入品の平均関税率は2.4%から17.7%に上昇し、大恐慌時の1934年以来で最高の水準となる。
材料や部品の輸入依存度が高い企業(米国の大半の製造業が該当する)は特に大きな打撃を受ける可能性がある。コスト上昇分を消費者に転嫁できる企業もあるだろうが、インフレで数年にわたって家計が圧迫されており、転嫁が困難な企業もあるだろう。企業は、短期的にはサプライヤー契約の再交渉や、サプライチェーンの再編、発注前倒し、在庫積み増し、適用除外のためのロビー活動などを試みるだろうが、トランプ新関税の影響を長期的に回避するのは困難かもしれない。ムーディーズ・アナリティクスのチーフエコノミスト、マーク・ザンディ氏は「トランプ政権1期目の関税と同様に、経済的な影響は免れないだろう」と話す。
米税関・国境警備局(CBP)のデータによると、米国が2017年に徴収した関税は330億ドルだった。トランプ大統領が対中貿易戦争を始めた年である2018年の1月から2024年10月までの徴収額は約4860億ドルに上った。貿易や経済に関する調査会社トレード・パートナーシップ・ワールドワイドのマネージングディレクター、ダニエル・アンソニー氏の計算によれば、2018年以降に徴収された関税の半分以上は、トランプ政権1期目に実施された関税措置によるものだという。
現在と2018年以前とでは貿易環境や米国経済の状態が異なるため、新関税政策が与える影響も変わってくる可能性がある。米国勢調査局のデータによると、米国の2023年の対中輸入額が4269億ドルと、2018年比で20.7%の減少となった一方で、メキシコからの輸入は4752億ドルと、2018年比で約38%の増加となった。2024年10月現在、メキシコからの輸入が米国の輸入の約16%を占めている。中国、メキシコおよびカナダはすでに、トランプ関税が実施された場合、米国からの輸入品に報復関税を課す考えを示唆している。
小売り業界の懸念

新たな関税の影響は、業種や企業規模によって異なる可能性がある。サンフランシスコ連銀の2019年の調査によれば、小売り業界の場合、米国の耐久消費財支出の約23%、非耐久消費財支出の約19%が輸入品由来だ。小売り企業の側も貿易動向の変化に神経を尖らせている。企業情報プラットフォーム「アルファセンス」を使用した本誌の分析によれば、上場投資信託(ETF)のSPDR S&PリテールETF<XRT>の組み入れ銘柄78社のうち約30社が直近の四半期決算説明会で関税に言及している。1年前、言及した企業はゼロだったが、トランプ氏が選挙戦で、高率関税導入を公約して以降、急増した。
投資会社バイコフ・グループのローン・バイコフ最高経営責任者(CEO)は、新規関税の影響度合いは、企業側の影響軽減努力によって変わってくると話す。法律事務所グリーンバーグ・トラウリグの国際貿易弁護士ローラ・シーグル・ラビノウイッツ氏によれば、1ドルショップや家電、美容品、玩具、家具の販売業者など、関税によって大きな影響を受ける可能性のある小売り企業は、調達先の変更や関税導入前の輸入など、影響を軽減する方法をすでに模索中だという。
小売り業界は、適用除外や適用範囲の縮小などを求め、ロビー活動を行う可能性が高い。玩具業界は玩具価格の高騰は市民の不評を買い、政治的に高くつくというキャンペーンが奏功し、トランプ政権1期目の関税をおおむね回避した。投資家はトランプ氏の最終的な決定や企業の影響軽減戦略の有効性を注視する必要がある。
ハイテク業界

ハイテク業界の場合、外国製部品のみが関税の対象となるため、影響度は製品によって大きく異なる。また、末端価格の大きな部分を、輸入業者の利益や、小売り、輸送、マーケティングといったサービスなど、米国内における付加価値が占めている。
粗利益率が高い企業は低い企業よりも関税による打撃を吸収しやすいだろう。米半導体大手エヌビディア<NVDA>は粗利益率が76%もあり、打撃は少ないだろう。一般的に中国からの輸入品に対する依存度が高く、利益率が低いコンピューターハードウエアメーカーは、より大きな打撃を受けるだろう。アップル<AAPL>の粗利益率は37%と消費者向けハードウエア企業としては高いが、末端価格に占める関税対象部分の割合がエヌビディアよりも高い。アップル製品は主として中国で生産されており、米国での売上高の大半が関税の対象となる可能性がある。トランプ政権1期目では、ロビー活動によって関税適用除外を勝ち取っている。
マイクロソフト<MSFT>、アルファベット<GOOGL>のグーグル、アマゾン・ドット・コム<AMZN>のアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のクラウド事業、メタ<META>(旧フェイスブック>などのソフトウエア会社やサービスプロバイダーは基本的に輸出企業であり、米国の関税の影響を直接受けることはない。しかし、4社とも輸入テクノロジーをデータセンターの運営に使用しており、トランプ関税が実施されれば、コストが増加する可能性がある。2024年9月30日までの4四半期の設備投資は4社合計で約2000億ドルに上り、うち約60%を輸入機器が占めている。
小売りやハイテク以外の業界も関税導入で打撃を受けるだろう。アルミニウム、亜鉛、ニッケルを多く使用する製造業は、その大半が海外で生産されているため、特に影響を受けやすい。米国企業は、これらの原料をメキシコとカナダに大きく依存している。例えば、米国のアルミニウム生産量は国内需要のわずか12%にすぎない。建設業界、家電業界、医療機器業界の企業、さらには航空宇宙産業の企業も、より高い原材料コストに直面する可能性が高い。
自動車価格の上昇

自動車業界では、米運輸省道路交通安全局(NHTSA)のデータによれば、米国で組み立てられている人気車種の部品のうち、約50〜70%がカナダ製または米国製であり、残りがメキシコやその他の地域から輸入されている。自動車オンライン市場を運営するカーズ・ドット・コム<CARS>によれば、全自動車部品の約50%を輸入品が占めている。米国内で販売される自動車の約25%が米国外で組み立てられており、高率関税の対象となる可能性がある。
調査会社ウォルフ・リサーチのアナリスト、エマニュエル・ロスナー氏の計算によると、全てを合算した関税の影響額は輸入車1台当たり3000ドル、新車平均価格の約6%だ。これは、ウォール街の推計レンジの中央に位置する。以前、本誌は10%の一律関税導入で米国製の新車価格が4%か5%上昇し、カナダとメキシコからの輸入に対して25%の関税が導入された場合、約8%上昇すると推計している。
部品価格や材料価格の上昇は、特に追加関税コストの大部分を転嫁できない場合、米自動車メーカーの収益にも打撃を与える可能性がある。投資会社バーンスタインのアナリスト、ダニエル・ロースカ氏の推計によれば、カナダとメキシコからの輸入品に関税が導入された場合、営業利益はゼネラル・モーターズ<GM>が最大30%、ステランティス<STLA>が約20%、フォード<F>が約25%目減りする。
価格が上がれば、消費者の需要が減少する可能性がある。投資銀行ベアードのアナリスト、ルーク・ジャンク氏の推計では、カナダとメキシコからの輸入品に25%の関税が導入されれば、すでに軟化している米国の自動車需要をさらに押し下げ、最悪の場合、約110万台(約7%)の減少となる。
株価も下落

関税によって企業の利益や購買力が損なわれるだけでなく株価も下落することは歴史が証明している。ニューヨーク連銀の研究者が最近行った計算によると、2018年1月から2019年8月にかけて、関税措置が発表された11日間(11回の発表)の累計で米株式市場は11.5%下落した。時価総額にして4兆1000億ドルが失われた計算だ。
トランプ関税の規模と範囲はまだ分からない。しかし、歴史からも、米国企業の輸入に対する依存度の高さからも、多くの米国企業が厳しい時代を迎えると予想される。