サンプル(過去記事より)
LA山火事で巨額損失も保険株に明るい未来と言える理由
気候変動による保険需要増で業界は活況
保険株は下落も長期的な見通しは明るい

パシフィックパリセーズ地区が燃えているのを見て、保険業界がこの山火事から生き残ることを想像するのは難しいかもしれない。しかし、気候変動に伴う厳しい天候は、実際には保険業界の成長を助ける可能性がある。それゆえ、読者は山火事の被災者に救援物資を送るのはいいが、保険株を全部売ってはいけない。
1月10日にかけて、損害保険株はロサンゼルス近郊の山火事による200億ドルの保険損失予測に動揺していた。個人向け自動車保険事業を主業とするマーキュリー・ジェネラル<MCY>の株価は一週間で24%下落し、同様に損保大手のオールステート<ALL>は5%、トラベラーズ<TRV>は4%それぞれ下落した。しかし、これは短期的な打撃だ。保険業界の長期的な見通しは明るい。
ハリケーンや火災が多発した過去5年間、保険株のパフォーマンスはS&P500指数を上回り、S&P500指数の80%上昇に対して、上場投資信託(ETF)のiシェアーズ米国保険ETF<IAK>は87%上昇した。これは、保険業界が保険料の値上げを実現し、採算が取れないような事業の追求を避けるという規律を持っているためだ。上場する損保会社の多くが2024年に過去最高益を記録した。
カリフォルニア州の保険市場が未来を予見

カリフォルニア州が公表する数字によれば、州内の住宅保険市場のトップはステート・ファーム・グループとファーマーズ・インシュアランス・グループで、2023年の市場シェアはそれぞれ21%と16%だった。両社ともに相互保険会社であり、一般投資家ではなく契約者によって所有されている。規制当局が保険料値上げの要求を拒否したため、両社とも2年前に州内での新規契約の引き受けを停止している。
上場する損保会社の中で、カリフォルニア州の保険料収入の大部分を住宅所有者向け保険から得ているのは、マーキュリー・ジェネラル(住宅所有者向け保険の保険料収入が全体の23%を占める)、オールステート(同15%)、トラベラーズ(同13%)だ。マーキュリーは1月10日、再保険による13億ドルの回収前ベースで、保険損失額が1億5000万ドルを超える見込みであると発表した。
ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイ<BRK.B>は州第3位の損害保険会社であるが、保険料収入のうち住宅所有者向け保険が占めるのは1%未満だ。山火事による損害は2020年以降、決算発表において保険業績で言及されるほど重大なものではなくなっている。
バフェット氏は2024年5月、「気候変動はリスクを増大させる。だが結果として、気候変動はわれわれのビジネスを長期的に成長させる」と、バークシャーの年次株主総会で株主に語った。リスクが高まるということは、保険に対するニーズが高まるということだ。バフェット氏は「もしリスクがなければ、保険ビジネスは存在しなかっただろう」と述べた。
バークシャーの保険事業を統括するアジット・ジェイン氏は、保険契約上の責務、特に再保険契約のほとんどは1年以内に限定されていると指摘する。契約期間終了後、保険料を見直すか、あるいはこの事業から完全に撤退することになる。ジェイン氏は「気候変動はインフレと同じで、うまくいけばリスク負担者の味方になる」と言う。
カリフォルニア州は、保険業界が今後どのように変わっていくかを予見させてくれる。カリフォルニア州は山火事の被害が最も大きく、規制当局は保険会社が保険料を値上げして保険損失を補填(ほてん)することに難色を示している。そのため、保険会社はカリフォルニア州から撤退し、住宅所有者は州運営の高額な保険に入ることになる。
しかし、カリフォルニア州の規制当局は、パリセーズ地区の災害が起きる前から譲歩し始めていた。ジェイン氏はバークシャーの5月の年次株主総会で、「保険会社が資本を投入し続けるためには、それなりの見返りが必要だという事実に規制当局は気づきつつある」と述べた。今月から、カリフォルニア州は保険会社の値上げを認める一方、山火事の危険性がある地域での保険提供の継続を義務付ける。
この規制変更を見越して、ファーマーズは12月11日、カリフォルニア州の新規保険契約の引き受けを開始すると発表した。マーキュリー・ジェネラルは、カリフォルニア州の町パラダイスが山火事「キャンプ・ファイア」にのみ込まれた2018年以来、この町で新規に住宅所有者向け保険を引き受ける最初の大手保険会社になると発表した。本誌はファーマーズに、今回の山火事で住宅所有者向け保険引き受け時のリターンの再評価を検討しているのかと尋ねた。答えはノーだ。
ファーマーズの広報担当者は「われわれは現在、南カリフォルニアに影響を及ぼしている壊滅的な火災と強風の影響を受けている顧客を支援することに集中している。2024年12月11日に発表した、カリフォルニア州における保険引き受けキャパシティーの増加に関する情報は、依然として正確なものだ」と言う。
気候変動は保険ビジネスを変える

気候変動による保険金支払い頻度の増加に対処するため、元受け保険会社は一定程度の保険損失が生じた際にその損失の一部を回収できる再保険に多額のコストをかける必要がある。これは、バークシャー、保険会社アーチ・キャピタル・グループ<ACGL>、再保険会社エベレスト・グループ<EG>にとっては恩恵となる一方、スイスの再保険大手スイス・リー<SREN.スイス>とドイツの再保険大手ミュンヘン・リー<MUV2>といった海外再保険株が上昇している。
ミュンヘン・リーの広報担当者は「われわれはリスクを適切に反映した保険料を確保できる限り、あらゆる市場で自然災害の保険引き受けキャパシティーを提供することに変わりはない」と述べた。
規制当局が気候変動による保険損失の増加に伴う保険料の値上げを認めない州から保険会社が撤退した場合、通常では保険引き受けが難しい商業用不動産を対象とするエクセスおよびサープラスライン(認可保険会社が引き受けないリスクの高い契約や特殊なリスクを引き受けるもの)を提供しようとする保険会社もある。
カリフォルニア州やフロリダ州などにおけるエクセスおよびサープラスラインの需要から、モルガン・スタンレーは保険販売会社ライアン・スペシャルティ・ホールディングス<RYAN>の投資判断を「買い」とした。アナリストのボブ・ジアン・フアン氏らは「保険会社が損保分野のエクスポージャーを減らしている州では、エクセスおよびサープラスラインのエクスポージャーが大きい傾向がある」と書いている。
気候変動は保険ビジネスを変えようとしている。保険契約者にとっては、保険にかかるコストが高くなるということだ。しかし、資本と知識を持つ者にとっては、保険引き受けキャパシティーの供給はより大きなビジネスになるだろう。