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WEEKLY 2025年4月20日号

退職者の皆さん、貿易戦争に備えて、ポートフォリオの守りを固めましょう

The Trade War Is Here. Retirees, It’s Time to Protect Your Portfolio.

退職後の数年間のポートフォリオのパフォーマンスが老後に大きな差をもたらす

退職者にとってシークエンス・オブ・リターン・リスクは最大の敵

KIRILL KUDRYAVTSEV/AFP via Getty Images

トランプ大統領が仕掛けている貿易戦争で株式市場が乱高下しているが、投資家にとって重要なのは自分でコントロールできることをすることだ。退職者にとって、それはすなわち、市場のボラティリティーや下落および経済の変動や景気後退から自身のポートフォリオを守ることだ。

過去数週間、トランプ大統領が関税政策を導入したり一時停止したりする中で、株式相場が大きく変動し、不安に感じる時が続いた。退職者はとりわけ気が気でならなかったかもしれない。S&P500指数は年初来10.3%下落しているが、短期での利益獲得をもくろむ投資家にとっては心穏やかでない下落率だろう。

最近退職した人は特に、シークエンス・オブ・リターン・リスク(リターンの順番で資産残高が変動するリスク)として知られる現象に対して脆弱(ぜいじゃく)である。シークエンス・オブ・リターン・リスクとは、退職後の初期段階で株式の下落を経験すると、その後に株式の下落を経験するよりはるかに影響が大きいことをいう。モーニングスターは最近発表したリポートで、ポートフォリオを取り崩して引き出す資金が枯渇(こかつ)したケースの約70%は、退職から最初の5年以内に損失が発生したことによるとのシミュレーションの結果を示している。

関税の影響については依然として不明な点が多く、株式市場は不確実性を嫌う。ニュースにいちいち反応する必要はなく、きちんと手順を踏めば、自身のポートフォリオの耐性を高めることができる。オハイオ州エイボンに本拠を置くJLスミス・ホリスティック・ウェルス・マネジメントの社長兼最高財務責任者(CFO)であるブライアン・ビッボ氏は、「退職者は世界貿易の緊張感の高まりをどうすることもできないが、そうしたリスクに対して自身のポートフォリオを備えることはできる」と語る。

ポートフォリオの資産配分を再検討する

60/40ポートフォリオ(株式に60%、債券に40%投資する手法)はまだその役割を終えたわけではないが、期待を裏切っているのも事実だ。アポロ・グローバル・マネジメントのチーフエコノミスト、トーステン・スロック氏によれば、株式60%、債券40%の古典的な組み合わせは、2022年の年初以来わずか2%の年率リターンを上げているにすぎない。

過去数年は債券にとっては厳しい環境であり、2022年は株式と債券の同時下落が起きた普段は見られない年だった。一方、モーニングスターのパーソナルファイナンスおよび退職プランニングのディレクターを務めるクリスティン・ベンツ氏は、債券はリセッション(景気後退)では安全弁を提供してきたと指摘する。JPモルガンが2025年にリセッションに陥る確率を60%とするなど景気後退に入る可能性が高まっており、債券はそうしたシナリオの下では価格が上昇するだろうが、特に米連邦準備制度理事会(FRB)が今年後半に何回か利下げをすればなおさらだ。

債券投資から手を引く代わりに、オルタナティブ資産をポートフォリオに加えることを検討してもよいかもしれない。オルタナティブであれば、株式や債券とリターン特性が異なるからだ。ミシガン州ノースビルのストーンブルック・プライベートの最高投資責任者(CIO)を務めるスペンサー・ニッカーボッカー氏の顧客の中には、資産配分が株式60%、債券30%、金(ゴールド)の上場投資信託(ETF)や、マネジド・フューチャーズ戦略やマーケット・ニュートラル型のミューチュアルファンドなどのオルタナティブ資産10%といったポートフォリオもある。オルタナティブファンドとして検討できるものとして、キャンベル・システマティック・マクロ<EBSAX>やブラックロック・グローバル・エクイティ・マーケット・ニュートラル<BDMAX>がある。キャンベルは年初来約1%上昇、ブラックロックは4.5%上昇している。

自身のポートフォリオの資産構成にかかわらず、退職者は少なくともポートフォリオから引き出せる1年分相当の生活費を現金で確保すべきだ。これはソーシャルセキュリティー(社会保障)などの収入源を除いた生活費を賄(まかな)うためにポートフォリオから引き出す必要がある金額だ。現金から生活費相当を引き出すことにより、株式を売却して残高を減らすことなく、シークエンス・オブ・リターン・リスクからポートフォリオを守ることができるはずだ。

ディフェンシブなポートフォリオ調整

リセッション懸念が高まる中、ファイナンシャルアドバイザーは株式については優良銘柄、そして債券の重要性を強調している。大型優良株(ブルーチップ)の高配当株は常に堅実な投資であり、ティー・ロウ・プライス・ディビデンド・グロースETF<TDVG>やフランクリン・US低ボラティリティー・ハイ・ディビデンドETF<LVHD>を検討してみてもよいだろう。投資のプロの中には、リセッションや関税政策にかかわらず業績を維持できるテクノロジーの分野を選好する人もいる。具体例を挙げると、サイバーセキュリティー関連株のパロアルト・ネットワークス<PANW>で、株価は年初来5%下落しているものの、ハイテク株の比率が極めて高いナスダック総合指数は年初来15%下落している。

ウェルス・アドバイザリー企業ピトケーンでチーフ・グローバル・ストラテジストを務めるリック・ピトケーン氏は、インフラ株には退職者にとって重要な三つの要素があると語る。低リスクかつ配当も手厚く、価格上昇を通じてインフレヘッジにもなるからだ。ETFでは、iシェアーズ米国インフラETF<IFRA>は投資に手ごろだ。年初来約5%下落しているものの市場全体よりは下落率が抑制されており、配当利回りは2%だ。

ニッカーボッカー氏は、債券では現在、非課税の地方債が魅力的に見えると言う。4月7日の週の下落の後で、地方債の利回りは課税後換算で7~8%に相当する。ただし、税率は投資家ごとに連邦税率および州税率の税率区分により異なるため注意が必要だ。投資家の中には、居住地の州や地方自治体の発行する債券への投資を好む人もおり、別の選択肢としてはフィデリティ・タックス・フリー・ボンド<FTABX>やバンガード・ハイイールド・タックス・エグゼンプト<VWAHX>がある。フィデリティおよびバンガードはいずれもカリフォルニアやニューヨークなど税率の高い州に居住する投資家向けに州債ファンドを提供している。

自分にとって安心できる資産構成を持っておけば、関税問題の嵐を乗り切る助けになることだろう。ニッカーボッカー氏は「過去を振り返ってみても、市場は下落しても回復してきたし、今後もそうなるだろう」と述べている。

 

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