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WEEKLY 2025年6月29日号

大リーグから学ぶ投資の要諦

Baseball’s Surprise Lessons for Investors

最終リターンを左右するのは金利と税金

元所属選手に毎年120万ドル支払うメッツ

Jayne Kamin-Oncea/Getty Images

最近のチームの不振により、大リーグ(MLB)ニューヨーク・メッツのファンの気分はすでにどん底だが、メッツにとって、7月1日は不名誉の日「ボビー・ボニーヤ・デー」だ。2011年から毎年、元メッツの外野手ボビー・ボニーヤはこの日に119万3248.20ドルの小切手を受け取り、それは2035年まで続く。ボニーヤがチームを去ったのは1999年だったにもかかわらず、である。

メッツは2000年、ボニーヤとの契約を前倒しで打ち切ることにした。メッツには残り590万ドルの支払い義務があったが、一括で支払う代わりに、ボニーヤの引退後の収入となる年金型の後払い契約を結んだ。これにより、毎年約120万ドルを24年間受け取る形になった。契約は8%の金利を前提としており、最終的にボニーヤは一括受け取りの5倍以上となる約3000万ドルを手にできる。

ここに、ファイナンスの基礎と言える教訓がある。それは、お金の時間的価値だ。1ドルは今すぐ手にすれば、複利運用によって将来は何倍にも増える。逆に、将来得られる支払いの総額は、現在の価値に割り引くことができる。将来価値がどれだけ増えるか、または将来の支払いが現在どれほどの価値を持つか、すべては金利次第だ。

ボニーヤが毎年7月に受け取る途方もない額の小切手も、金利を無視すれば確かに非常識に見える。2023年、ジュニアタ大学のコンピューターサイエンス教授で、シカゴ・カブスのファンでもあるジェラルド・クルーゼ氏は論文で、メッツがボニーヤに支払うはずの590万ドルを、当時のBBB格付け社債が支払っていた8%の利回りで運用すれば、十分に年119万ドルの年金を賄えたと試算している。

だが、メッツはそれ以上のリターンが得られると考えていた。当時のオーナー、フレッド・ウィルポンは、長年投資を共にしてきた親友のバーナード・マドフが、それ以上のリターンを生み出してくれると信じていた。クルーゼ教授の計算では、仮にマドフの約束した最低水準の年10%の利益をメッツが得ていれば、2035年にボニーヤへの支払いが完了する時点で、追加で4800万ドルの利益が残るはずだった。

あるいは、最初から420万ドルだけを準備し、それを年利10%で運用できていれば、2035年までの支払いは全て賄えた。結果、2000年時点で170万ドルを節約し、その資金を他の選手の獲得に充てることも可能だった。その後、どうなったのかはご存じの通りだ。本誌は2001年時点でマドフの運用リターンに疑念を呈していたが、2008年の金融危機でマドフによる投資詐欺の一種、ポンジ・スキームは立ち行かなくなった。メッツとウィルポンは他の多くの投資家と共に損失を被りながらも、ボニーヤへの支払い義務だけは残った。

節税効果が高い大谷翔平式の契約

最近では、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平が、10年契約総額7億ドルのうち6億8000万ドルを後から受け取る選択をした。これは金利を重視した訳ではない。MLBの戦力均衡税(通称ぜいたく税)における現在価値は4.43%で算出されており、この利率で割り引くと、大谷の契約の現在価値は実質4億6000万ドル程度と見積もられる。

大谷がドジャースから受け取っているのは年間200万ドルにすぎず、チームは再びワールドシリーズで優勝できるよう戦力補強に使える資金を確保している。とはいえ、年間1億ドルのスポンサー収入を得ているとされる大谷にとっては、大した問題ではないだろう。ニューヨーク・タイムズの試算によれば、契約金の後払いによって大谷はカリフォルニア州の所得税で9000万~1億ドルの節税が可能だという。これは、最終的なリターンに占める金利と税金の重要性を示している。

スター候補への先行投資で利益を得るファンド

現在26歳のフェルナンド・タティス・ジュニアは、サンディエゴ・パドレスと2021年に14年総額3億4000万ドルの契約を結んだ。しかし、マイナーリーグの選手を支援する投資ファンドのビッグ・リーグ・アドバンス(BLA)との契約により、契約金の10%にあたる3400万ドルを支払う義務がある。さらに、将来生じる他の収入の10%も支払う契約だ。タティスは先週、この契約を無効にするためにBLAを相手に訴訟を起こした。

BLAはタティスに2017年に200万ドルを支払っており、パドレスとタティスとの契約に基づいて得られるBLAのリターンは年利42%に相当する。契約金の3億4000万ドルが14年にわたって均等に支払われるとの前提に基づいた計算だ。悪くない成果である。

もちろん、パドレスとの契約の前にタティスが期待外れの選手に終わったり、ケガで活躍できなかったりする可能性もあった。BLAは10代のタティスの将来性に賭け、先に大金を投じてメジャーリーガーとなったタティスが得る収入の一部を得ようとした。それは見事に成功した。BLAは、多くの選手と同様の契約を結ぶことで、一部が失敗しても全体のリスクを低減できる。これはファイナンスのもう一つの基本原則、分散投資の好例だ。

将来を見据えた判断をしたボニーヤ

こうした教訓は、スポーツの世界を超えて広がっている。かつてのメッツのように、一部の公的年金基金は将来の給付を賄うために高い利回りを前提としてきた。その結果、ニュージャージー州やイリノイ州の年金制度は、将来の支払い義務に対する資金の準備率が50%を下回っている。また、若いころのタティスのように、高齢者が生命保険の将来の支払いを前倒しでもらう契約を結んだり、リバースモーゲージによって自宅の資産価値を現金化したりする例もある。

これらの話の教訓は、お金にも時間にも「価格」があるということだ。ボニーヤは目先の利益に飛びつかず将来のために我慢したことで、メッツから2035年まで毎年120万ドルの小切手を受け取りながら、快適なリタイア生活を送っていけるだろう。同様に、タティスもパドレスからの3億4000万ドルと他の収入のうち10%を差し出しても、十分な生活を送っていけるはずだ。

 

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