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〔証券情報〕東証、レバレッジ型商品をETF除外へ=投資初心者を保護
<2021年6月4日>
2021/05/28 12:49
東京証券取引所は、日経平均株価などに連動する上場投資信託(ETF)のうち、「レバレッジ型」や「インバース型」といった高リスク商品をETFの分類から外す方針だ。老後に向けた長期的な資産形成といった目的で投資に関心を持った初心者が一般的なETFと混同してしまうことがないよう商品特性の違いを明確化する。金融庁と詳細を詰め、年内にも実施したい考えで、投資家と直接向き合う証券会社も対応を迫られそうだ。
▽拡大続く裾野
金融庁の有識者会議が2019年6月、「老後資金に2000万円が必要」とする報告書を公表してから約2年。資産形成への関心の広がりは途絶えず、現役世代を中心にとする新たな個人投資家の市場参入が続いている。
主な受け皿を担うのはインターネット証券。最大手SBI証券は今年3月、口座数が600万を超えたと発表した。前年同期比17%増の速いペースで、これを追う楽天証券も今月中旬に600万口座獲得を公表している。
金融庁や東証は長期投資に取り組む個人に対し、価格変動リスクの分散がしやすいETFの活用を呼び掛けてきた。ただ、「日経平均レバレッジETF」などレバレッジ型は元の指数の数倍といった率で価値が上下するよう設計され、価値が大きく振れやすい。短期間で大きくもうけられる可能性がある一方、多額の損失を被るリスクもあり、初心者向きとは言えない。さらに元の指数の株価が上下動を繰り返すため、時間の経過とともに価値は目減りする傾向にあり、長期保有に適さない商品というのが定説だ。
「日経ダブルインバースETF」など指数の動きとは逆に価値が上下するインバース型も、株価急落の直前に買っておけば大きくもうけられる半面、損失リスクが大きい。
▽香港に倣い新カテゴリー
東京都内に住む20代の理容師男性はコロナショックで日経平均が1万6000円台まで下がった昨年3月、ネット証券に口座を開いた。日頃から「資産形成の必要性」に関してメディアでよく見聞きしており、理容室で富裕層の顧客から「日経ダブルインバースでも買っておけば」と勧められたのが契機という。株価暴落を目にしたことと、口コミで受けた示唆が共振して心に響いた様子だ。
しかし、実際には、日経平均は昨年3月を底値にその後回復基調をたどった。男性は値動きの読みにも商品特性にも十分な見識を欠いたまま、リスク商品に資金をつぎ込んでしまったことになる。
誤解を避けるため、東証はこうした高リスク商品が属する「レバレッジ・インバース商品」といった新たなカテゴリーを設け、他のETFとの違いを鮮明にする考えだ。こうした先例は香港市場にあり、同地では「レバレッジ」と「インバース」の頭文字をとった「L&Iプロダクツ」という商品分類の呼称が既に定着している。
▽問われるきめ細かい対応
政府も近く内閣府令を見直し、レバレッジ型商品などのリスクを広告や商品説明で明示するよう事業者に求める方向だ。具体的な内容はまだ明らかになっていないが、ある証券大手の関係者は「もし取引端末上でのくどくどした説明や承諾手続きを義務付けられると、慣れた顧客にとっては利便性低下になりかねない」と警戒する。
ネット証券関係者は「初心者の新規参入は続いており、慣れた顧客とは別の対応が必要」と指摘。今後について「交流サイト(SNS)機能を持つサービスを通じ、初心者に丁寧に対応することも可能では」との見方を示す。
ネット証券の誕生から20年超。市場には投資の豊富な経験とスキルを身につけた個人と、流入を続ける初心者が併存する。ネット隆盛時代の今、求められる「顧客本位の業務運営」とは何か。対面証券の担当者による「回転売買」の弊害が問題視された時期を経て、証券業界は新たな課題に直面していると言えそうだ。(了)