マーケットニュース

商品先物の活性化、特性踏まえた議論を=早大・尾崎安央教授

<2020年7月31日>

大阪取引所=27日、大阪市中央区
大阪取引所=27日、大阪市中央区

 早稲田大学法学学術院の尾崎安央教授は時事通信社のインタビューに応じ、日本の商品先物市場の活性化について、「現物取引との関わりや商慣習など、商品先物取引の特性を踏まえた議論が欠かせない」と指摘した。尾崎氏は、2007年から12年にかけて、産業構造審議会(経産相の諮問機関)で商品先物取引分科会の会長を務めるなど、商先法の権威として知られる。

 ―7月に日本取引所グループ(JPX)の総合取引所がスタートする。

 総合取引所の利点は、たとえば単一のクリアリング(清算)機関へ証拠金を預託することで、証券や商品先物などのさまざまな投資対象を、横断的かつ安全に売買できることだ。裁定取引やハイブリッド型商品への投資など、参加者は資金を効率的に運用できるようになる。

 取引する上で、重要なのはクリアリング制度。12年にまとめた産構審の報告書では、クリアリング機能の重要性を指摘し、強化を求めた。クリアリングは商品先物取引の最終的な「出口」であり、ストーブの煙突のようなものだ。目詰まりしては不完全燃焼につながりかねない。

 JPXの総合取引所ではクリアリング機関を一本化し、強化された。多様な参加者が、安心して参入できる環境が整った。商先市場が活性化することを期待している。

 ―不招請勧誘の禁止の影響で、国内の商先市場は低迷している。

 原因はそれ(不招請勧誘禁止)だけではなかったと考えている。活況だった頃の市場は、素人(一般投資家)からの投資資金で支えられていた。商品先物のようなレバレッジ取引は、損失が膨らみやすく、素人を無理やり参加させれば、トラブルにつながりやすい。

 また、魅力的な上場商品の開発が進まなかった。投資家にとっては、怖い割に、面白くもないわけで、結局、市場へ個人投資家を呼び込み、定着させることはできなかった。通常ヘッジニーズがあると考えられる石油元売りや農業団体など、当業者の参入も進まなかった。

 報告書をまとめたときは、「このままでは、日本の商先市場はつぶれてしまう」との危機感をもった。そして、近年、市場が一層縮小していることは気がかりだ。しかし、日本の商先市場が手遅れだとは思わない。必ずしもグローバルマーケットではなく、ローカルマーケットでも構わない。産業インフラとして、国内に商先市場があることに意義がある。

 ―上海や大連など、中国商先市場の台頭が著しい。

 新規上場を積極的に挑戦し、まずまずの成功を収めている点は評価すべきだ。日本では、試験上場制度で電力やコメを取引しているが、当業者の利用は活発といえないようだ。

 経済のグローバル化が進み、国内の当業者が国際商品の価格変動リスクにさらされる機会は増える。そのとき、リスクヘッジの場として、商先市場は必要だ。しかし、その市場が十分機能していないと、日本の経済的な地位は低下する。いったんつぶれた市場を再生するのは、時間もコストもかかり、容易ではない。

 ―大阪取引所に貴金属やゴム、穀物を移管する上での留意点は。

 商先取引には独特の商慣習や制度があり、金融的発想だけでは対処できない部分がある。例えば、早受け渡しや申告受け渡しなどのデリバリー。これらは、長い歴史の中で自然発生的に生まれ、規制や見直しを重ねながら、培われてきたものだ。商先に関して、大阪取は、東商取からノウハウを継承すると良い。

 ―商品先物には上場商品の受け渡しなど、産業政策的な側面もある。

 総合取引所の実現を可能にした14年施行の改正金融商品取引法では、金融商品取引所が商品デリバティブ取引を上場する際には、金融庁は商品先物取引所を所管する経産相や農水相と「事前協議を行い、同意を得る」よう定めた。役所間で産業政策的な議論をすることに意義があるわけだが、産構審の分科会審議や報告書は、会長を務めた12年が最後。現在は、電力先物でも、議論し、調整する場がなく、非常に問題だ。

 ―商品先物法制の研究者が減っているとか。

 酒巻俊雄先生(早稲田大学法学部名誉教授)らの研究会への参加を契機に、1980年代から商先法(旧・商品取引所法)の研究を続けてきたが、残念ながら同法を専門テーマとする法学者は私が最後の世代になってしまったのではないか。証券や金融を研究している多くの若手法学研究者にとって、商品先物は遠い存在であり、おそらく理解は難しいだろうが、ぜひこちらも勉強してほしい。総合取引所の誕生を機に、昨年、商先法の解説書を7年ぶりに改訂出版した。共著者の河内隆史先生(明治大学名誉教授)とは、「われわれの遺言だな」などと冗談を言い合っている。(了)