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「宝刀」に託す政権の命運=首相、最大の危機に直面―新型コロナ
<2020年4月10日>
2020/04/07 23:08
安倍晋三首相は7日、感染が拡大する新型コロナウイルスを抑え込むため、東京、大阪、福岡など7都府県を対象に緊急事態宣言を発令した。医療崩壊への強い危機感から「伝家の宝刀」(西村康稔経済再生担当相)を抜いた形。1カ月の期間内で収束へ導けるかどうか、政権復帰以来最大の危機に立たされた首相の手腕が試される。
◇2週間後の減少狙う
7日夜の首相官邸。感染予防のため、普段より広い会場で行われた記者会見で、首相は「医療現場は危機的な状況だ。感染者数を拡大させないためには、何よりも皆さんの行動を変えることが大切だ」と語り、国民に協力を呼び掛けた。
対象となった7都府県では、知事の判断で不要不急の外出自粛やイベント中止を要請するなどの措置が可能になった。5月6日までの期間中、新たな感染者を抑制し、減少への反転を目指す。
宣言を決断するに当たり、首相が参考にしたデータがある。政府の専門家会議に参加している西浦博北海道大教授がまとめた試算だ。それによれば、東京都民の外出を厳しく制限し、人と人の接触を8割減らすことができれば、感染者数は頭打ちとなり、減少へ転じるという。
首相は会見で、現在のペースで感染拡大が続けば、都内の感染者は1カ月後に8万人を超えると説明。その上で「私たち全員が努力を重ね、人と人の接触機会を最低7割、極力8割削減できれば、2週間後には減少に転じさせることができる」と訴えた。
東京都の小池百合子知事が先月25日に、週末の外出自粛を要請した際は、鉄道利用者が7割減ったとされる。宣言による心理的な抑止効果は期待できる。
ただ、外出自粛要請に罰則はなく、その成否は個々人の「自主的協力」がカギを握る。東京都が独自に外出自粛を都民に要請してから、すでに約2週間。長期化による「自粛疲れ」も指摘され、自民党ベテランは「自粛、自粛が続いて感染が収まらなければ、不満の矛先は政権に向かうだろう」と危惧する。
◇野党「遅過ぎた宣言」
「政府の対応は残念ながら後手に回ってきたと言わざるを得ない」。立憲民主党の枝野幸男代表は7日の衆院議院運営委員会で、中国からの入国制限や専門家会議の設置が遅れたことを挙げ、安倍政権の対応を批判した。
東京都内で感染者が急増したのは、3月下旬の3連休がきっかけだった。国民民主党の玉木雄一郎代表は「あの時点で行動の自粛を徹底していれば3桁の感染者は発生していなかった」と指摘し、緊急事態宣言を「遅過ぎた」と断じた。
首相は「人類がウイルスに打ち勝った証し」として、来夏へ1年延期した東京五輪・パラリンピックの実現に意欲を燃やす。しかし、1カ月後に緊急事態宣言を延長せざるを得ない状況であれば、そうしたシナリオに狂いが生じかねない。
政界では、五輪成功を前提に、首相が意中の「ポスト安倍」候補へのバトンタッチや、自らの自民党総裁4選を視野に入れているという観測もある。緊急事態宣言を通じてウイルスの封じ込めに成果を上げればそうした見方に現実味が増すが、感染爆発を許した場合、首相は求心力を失うことになる。「この1カ月で感染を抑え込めなかったら、首相は退陣だ」。自民党内からはこんな声も漏れ始めた。(了)