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〔金融観測〕日銀政策点検をめぐる一考察=正副総裁発言を踏まえて
<2021年3月19日>
2021/03/10 15:49
日銀の金融緩和策の「点検」をめぐる取材もいよいよ最終局面を迎えつつある。黒田東彦総裁の国会発言、雨宮正佳副総裁の講演を終え、点検のおおまかな方向性は明らかになった。正副総裁の発言を踏まえて、現時点での見方をまとめてみたい。
日銀の政策点検に関しては、いわゆる地方紙向けの記事配信として、これまで主に3点について書いた。一つ目は昨年12月25日に配信した「◎ETF購入手法見直しへ=コロナ禍見極め―来年の日銀金融政策」。二つ目は今年1月15日に配信した「◎長期金利操作、運用見直しも=変動幅再拡大の可能性―日銀」。三つ目は2月10日に配信した「◎マイナス金利、危機時に強化=機動性確保へ方針明確化=3月の政策点検で日銀」。
ETFの記事では、株価指数の上昇基調時には買い入れを抑制する一方、下落時には大規模に買い入れるなど、購入手法に「めりはりをつける」と指摘した。
これに対し、雨宮副総裁は8日の講演で、ETFについて「めりはりのある買い入れを行うことは緩和の持続性を高める」と発言している。このためETFの購入手法を弾力化するのは間違いないだろう。もっとも、日銀内には、12兆円の上限を撤廃し、「無制限」化するなど派手な見直しに動く気配は乏しいように感じる。
マイナス金利については、先行きの政策運営の機動性を高めるため、深掘り余地があることを明確化すると書いた。雨宮副総裁は講演で「必要な時に、長短金利の引き下げを的確に行う」と明言。質疑では、市場がマイナス金利の深掘りに懐疑的な見方が根強いことに関し「そうした見方は改めてもらう必要がある」と強調した。
今後、先行き数年間を見据えると、景気後退や金融ショックなどで追加緩和が必要になる場面も想定される。しかし、一段の量的緩和は20年春のコロナ対策で国債の買い入れを無制限にしてしまったため、コントロールが事実上できない状態にある。点検は、金利操作への回帰を一層進めるものになるとの見方に変わりはない。
さて、焦点の長期金利の変動幅拡大である。この記事の執筆は、日銀内で、「中長期的な視点では債券相場はもう少しボラティリティーがあってもよい」という問題意識があったことが起点だ。それを実現する選択肢として、1月中旬に「変動幅拡大の可能性がある」と書いた。
時事通信の報道後、市場関係者の間で、「変動幅の拡大は、日銀が金利上昇を促す意図」との受け止めが広がった。報道をきっかけに、2018年7月の変動幅拡大の記憶を呼び起こした人が多かったのだろう。
さらに、米国の長期金利上昇だ。日本の長期金利も米国に連動する形で上昇基調を強め、2月26日には一時0.175%とマイナス金利導入時以来5年1カ月ぶりの高水準をつけた。金利水準はさておき、上昇ピッチの速さに日銀内でも身構える声があった。
こうしたことから、日銀は変動幅拡大はリスクが高いと踏んだとみられる。黒田総裁は5日の衆院財務金融委員会で、議論することは認めながらも「変動幅を拡大する必要があるとは考えていない」と明確に否定した。
変動幅拡大という選択肢は、こうした状況変化に対する頑健性が足りなかったということだろう。「0%程度」の解釈について、「プラスマイナス0.1%の倍程度」は維持しながら多少の表現修正の可能性は残るものの、少なくともプラスマイナス0.3%に引き上げるというような明示的な変動幅拡大を今回の点検で決める可能性は後退した。
ただ一定程度の相場変動は望ましいという日銀の基本的な考えは当初からぶれていない。変動幅拡大ではないとしても、長期金利操作の運用見直しの可能性は今後も残り続けるだろう。雨宮副総裁も「市場機能の維持と金利コントロールの適切なバランスをとることが重要で、そうした工夫の余地はある」と言及した。「緩和効果が損なわれない範囲内で、金利はもっと上下に動いてもいい」とも述べている。
なお、マイナス金利の副作用対策として、市場では、基礎残高の基準時点の見直し案も浮上しているもようだが、日銀内では、導入に向けた熱意はあまり感じられない。(経済部・宇山謙一郎・3月10日)