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〔特派員リポート〕米、新規上場が活況=「裏口」急増に賛否

2020年12月23日 11時50分

 米国で新興企業の新規株式公開(IPO)が活況を呈している。新型コロナウイルスの流行にもかかわらず、好調な株式相場を背景に時代を先取りするビジネスに対する投資家の強気な見方が反映された形だ。一方、「裏口上場」とやゆされる手法で株式市場にデビューする企業も急増している。

 ◇エアビーの復活

 「パンデミックによる景気後退の真っただ中で、新たな株式バブルの話題を提供した」(ニューヨーク・タイムズ)「初日の値動きはIPO市場の興奮をあおり続けるだろう」(ウォール・ストリート・ジャーナル)。

 シェアリングエコノミー(共有型経済)の雄、民泊仲介大手エアビーアンドビーの上場初日となった12月10日、同社株は公開価格の倍以上の水準で取引され、時価総額は1000億ドル(10兆4000億円)に到達した。

 エアビーはコロナの直撃を受けて一時期は年内の上場が危ぶまれており、IPOの成功は驚きを持って迎えられた。今年は他にもクラウド向けデータ管理のスノーフレークや料理宅配大手ドアダッシュなどの大型上場に市場が沸いた。

 ◇セレブも投資

 一方で、「白地小切手会社」と言われる特別買収目的会社(SPAC)を活用した上場も高水準で推移している。まず買収だけを目的とするSPACが上場し、その後、未公開企業と合併する手法だ。2年以内に買収先が見つからなければSPACは解散し、資金は投資家に返還される。

 事業実体のないSPACの資金調達は設立者の信用に負うところが大きい。このため、大リーグの名球団経営者として知られるビリー・ビーン氏、元プロバスケットボール協会(NBA)スター選手シャキール・オニール氏、ポール・ライアン前下院議長らセレブ(有名人)が参加する事例も相次いでいる。

 情報サイト「SPACアナリティクス」によると、2020年はこれまでに243件のSPACが上場し、約810億ドルを調達。前回のブームだったリーマン・ショック前の2007年(66件、約120億ドル)を大幅に上回っている。21日には、ソフトバンクグループもSPACの上場を申請した。

 ◇疑惑企業も

 SPACに買収される企業には簡便に上場できるメリットがある半面、合併後に疑惑が浮上する企業もあり、賛否を巻き起こしている。

 20年にSPAC経由で上場した企業で話題をさらったのが電動トラックを開発する米ニコラだ。上場後に株価は急騰し、米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)が資本業務提携を表明。「第2のテスラ」ともてはやされた。

 しかし、自力走行しているように見える試作車のPR映像が、実際には緩い下り坂を転がり落ちていただけだったことが発覚するなど、技術力や信頼に疑問符が付いた。創業者のミルトン会長は辞任に追い込まれ、GMは出資を撤回した。

 新型コロナによる未曽有の経済・社会ショックを物ともせずに、株式市場に華々しく登場した企業が告げるのは、ニューノーマル(新常態)の到来か、はたまたマネーゲームの再来か。ユーフォリア(陶酔状態)から覚めた後に選別が本格化する。(シリコンバレー支局 織田晋太郎)

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