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〔取引所FX20年①〕東京金融取、発展ステージはアジア展開や暗号資産上場

2025年07月01日 11時00分

 東京金融取引所(TFX)の外国為替証拠金取引(FX取引)が1日、2005年の開始から20年を迎えた。取引所が手掛けるFXとして、「くりっく365」の名称で親しまれ、価格形成の透明性や公正性を通じ、市場の健全化や成長を支えてきた。FX業界が成熟期を迎える中、TFXは、今後の発展に向け、アジアを中心にした海外展開や国内の地方金融機関との取引拡大、暗号資産(仮想通貨)関連商品の上場といった新サービスの拡充を掲げる。

 くりっく365の市場規模は、5月末時点で、預かり資産残高が5300億円、顧客数は120万口座に上る。10年11月に上場された株価指数証拠金取引の「くりっく株365」とともに、TFXの収益を支える中核事業となった。

くりっく365の歩みとドル円相場



 国内でのFX取引は、1998年の外為法改正を機に登場した。現在は金融庁管轄で金融商品取引法により規制されているが、当時は所管自体が明確ではなく、店頭FX業者が乱立。顧客との相対取引でトラブルが絶えなかった。こうした中、TFXの前身、東京金融先物取引所(TIFFE)が取引所取引のFX業務に名乗りを上げた。当初提供した通貨ペアは、ドル円やユーロ円など4通貨と少なく、取り扱う業者は限られた。「講演会を開いても、聴衆が会場に数人というケースも少なくなかった」(TFX幹部)という。

 その後、南アフリカランド、メキシコペソ、トルコリラなどの新興国通貨の品ぞろえを増やし、多様化を図ってきた。さらに25年1月に中国オフショア人民元、チェココルナ、ハンガリーフォリントの3種類の対円取引を追加上場し、外貨同士のペアを含めると、計28通貨ペアが取引できる環境が出来上がった。

 オフショア人民元は、日本でビジネスを展開する在日中国人の関心が高い。東欧2通貨はユーロとの相関性の高さや比較的少額で取引できる利便性などが投資家の人気を集める。

 ◇国内地銀に為替ヘッジ手段を提供

 主要通貨の上場が一巡しつつある中で、TFXが次に目を向けるのは海外事業の強化だ。TFXは17年10月に、台湾の規制当局からくりっく365の取引認可を取得。台湾域内の投資家が、取引所FXにアクセスができる環境が整った。こうした市場整備は、まだ国・地域別で台湾にとどまる。廣田拓夫社長は「他のアジア諸国にも海外展開を図りたい」とし、各国の規制当局との交渉を積極的に進めて認可を取得し、海外資金を日本に呼び込みたいと意欲を示す。

 他方、法人取引では「外貨取引のヘッジ手段として、一部地銀がくりっく365を利用し始めた」(TFX幹部)。メガバンクとは違い、外為市場と直接の接点を持たない地方の金融機関は多い。オンライン取引などを通じたビジネスの国際化により、地方企業にも外貨取引のニーズは高まっている。取引所FXを使えば、システム投資を抑えつつ「信頼性の高い公的取引所の為替レートでリスクヘッジに対応できる」ことを、積極的に地方金融機関にアピールしていく。

 ◇金融市場の技術革新に挑戦

 TFXは、今後の有力商品として、暗号資産関連商品の上場検討の可能性を探る。中期経営計画(25~29年度)で掲げた。世界的なブームが続く中、廣田社長は「クリアすべき課題はいくつもあるが、暗号資産をやらない手はない」と話す。具体的には、今後国内でも登場が期待される暗号資産ETFを原資産に活用し「くりっく株365」上でレバレッジ取引を提供する案などが挙がっている。

 暗号資産と同じブロックチェーン(分散型台帳)技術を用いた「ステーブルコイン」は、今年3月に日本で初めて、電子決済手段等取引業者による取り扱いが開始された。価値が安定しているステーブルコインは決済や送金に使いやすい上に、その裏付け資産であるドルや円など、あらゆる通貨を瞬時に低コストで両替する能力を持つ。「外為取引のあり方を大きく変える」(フィンテック業者)との見方が支配的。将来的にFXビジネスの在り方に大きな影響を与えることは間違いないだろう。次の20年に向けて、TFXの技術革新に対応するための挑戦は続く。(金融市場部 編集委員 宮崎恒裕

 

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