〔取引所FX20年③〕対面サービスを重視、AIも活用へ=主要3事業者に聞く
2025年07月03日 11時00分
東京金融取引所(TFX)の外国為替証拠金取引(FX取引)市場「くりっく365」事業を取り扱う主要3社の責任者に、特長や抱負を聞いた。豊トラスティ証券とサンワード証券は、対面取引をベースに、オンラインセミナーや人工知能(AI)を活用した顧客サービス向上を図る。海外展開の橋渡し役を担う日産証券は、TFXとともに台湾に続くアジア市場の開拓に取り組む。
◇対面で安心な取引を提供へ=豊トラスティ証券・多々良孝之専務取締役管理本部長

―FX取引事業の沿革は。
対面で店頭FX事業を開始したのが1998年11月で、国内最古参の一社だ。くりっく365は2006年4月から取り扱いを始めた。店頭FXからは撤退し、現在は取引所FXに一本化している。
店頭FX業者としては、業界の規制導入に先がけ、いち早く顧客資産の分離保管制度を導入、自主規制団体の立ち上げにも携わり、FXビジネスの健全化をリードしてきたと自負している。
―注力しているのは。
ユーチューブの投資情報チャンネル「ゆたかTV」だ。5万人超の登録者がいて、新たな営業基盤につながっている。月曜の朝から土曜の朝まで24時間の電話サポートデスクを配置、顧客の問い合わせに対応できる体制も、店頭FX当時から変わらない。
取引の迅速性という点では、ネット化された相対FX業者に軍配が上がる。しかし、われわれ対面業者は、より深いレベルでの市場アクセスを投資家に提供できる。比較的年齢層の高い投資家には、ネット取引に対し不安を持つ方が少なくない。そうした投資家のニーズに応え、安心なサービスを提供できることが強みだ。
―今後は。
レバレッジが効いたデリバティブ取引というのは、厳しく専門性の高い世界であり、決してネットだけでは完結しないものだと考えている。必要なのは信頼だ。当社が商品先物やFXを68年間続けて来られたのも、顧客との信頼関係があってこそだ。これからも当社の基本は対面取引。くりっく365、くりっく株365は優れた金融商品であり、地道にサービスを提供していきたい。
◇情報提供にAI活用=サンワード証券・梁川靖洋取締役営業本部長

―くりっく365の業歴は。
今年で11年になる。2000年代後半に主力業務の商品先物は市場縮小が進み、代替となるビジネスを模索する中で、取引所FXに出会った。14年に取次業者として業務を開始し、その後、メキシコペソ・円の堅調地合いにより、顧客資産の預かり実績を大きく伸ばすことができた。
顧客資産保全など安全性の高い仕組みが用意されていたことが、当社が取引所取引に参入した理由の一つだ。40~60代で資産に余裕のある方を中心に、対面とオンラインを組み合わせたハイブリッド営業で取引を提供している。
―今年は相場が波乱含みだ。
トランプ政権誕生で市場の不安定さが増大した。これまでのように高金利通貨を買って長期保有し、スワップポイント収益を狙うという戦略が通用しにくくなっている。現物と違いデリバティブはポジションを塩漬けにしておくことができないため、取引戦略の重要性が増している。ネット取引はこうした局面に対応できない。その点、対面取引は経験豊富なスタッフが投資をサポートしており、われわれの専門性が生かせる局面になってきたと思う。
―今後力を入れるのは。
1点目がセミナーだ。年間何百回も開催し、暗号資産(仮想通貨)のように取り扱っていないものも含めテーマは多岐にわたる。情報提供が顧客の金融知識向上に役立てていただけるなら幸せだ。
2点目はAIの導入。対面営業が引き続き当社の基本だが、業務効率化などで一部で利用を始めた。ゆくゆくは顧客へのタイムリーな情報提供にも生かしたい。
◇海外展開を積極化=日産証券・平尾友亮取締役ホールセール・オンライン事業本部長
―TFX関連事業の概要は。
くりっく365、くりっく株365に関するホールセール向けのサービスを手掛けている。具体的には、市場に流動性を提供し、投資家が取引しやすいようにする「マーケットメーカー」業務や、海外商品取引員(FCM)からの注文を市場に取り次ぐ業務だ。これまでに台湾やシンガポール、シカゴのFCMや証券会社からの注文をつないできた。他社のようなリテール業務はしていない。
―くりっく365に対する海外投資家の関心は。
取引所がFXを上場して成功しているケースは世界的にも珍しい。台湾の規制当局は17年、くりっく365、くりっく株365を台湾域内の投資家が取引可能な海外先物市場として認可した。以降、当社はTFXと一緒にマーケティングを進めており、台湾はとても有望だと感じている。新興国通貨ペアは投資家からの評判も高い。今後は他のアジア圏での展開を検討したい。アジアの流動性を取り込むことが、TFXの国際競争力を高める上では重要だ。
―金関連の品ぞろえが多い。
金に関しては、デリバティブから現物取引まで、投資家に合った投資商品を幅広く提案できるよう用意している。同様に、海外投資家に対しても、日本で上場されているデリバティブ市場の商品についてワンストップで提供できるよう、品ぞろえやサービスを充実させたい。(金融市場部 編集委員 宮崎恒裕)