ウォール・ストリート・ジャーナル
コモディティコンテンツ

マーケットニュース

〔取引所FX20年④〕規模拡大が為替相場の安定へ=三菱UFJMS証・植野氏

2025年07月04日 11時00分

三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフ為替ストラテジスト 植野大作氏 三菱UFJモルガン・スタンレー証券提供三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフ為替ストラテジスト 植野大作氏
三菱UFJモルガン・スタンレー証券提供

 三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作チーフ為替ストラテジストは、金融市場で一定の存在感を示す外国為替証拠金取引(FX取引)について、「通信技術の進歩がその急成長をもたらした」と指摘する。その上で、FX取引の規模拡大は為替相場全体の安定化につながるとの見方を示した。

 ―年間取引高は1京円を超えた。

 スマートフォンをはじめとする情報通信技術の進歩がFX取引の急成長に果たした役割は大きい。情報収集の面でも、かつては雲の上の存在だった米連邦準備制度理事会(FRB)議長や日銀総裁の記者会見を、個人が自宅でリアルタイムで視聴できる。予想していた以上に大きな変化が起きたと感じる。

 FX取引の登場により、それまで銀行の外貨預金や証券会社の外貨建てMMFぐらいしか選択肢がなかった個人投資家は、スマホを通じた機動的な取引が可能になり、個人とプロのトレーダーの環境格差は縮まった。機関投資家で取引経験を積んだ後に個人トレーダーになる人も出てきた。

 金融庁の規制も市場成長に影響した。かつては元手の数百倍もの高リスクなレバレッジを提供する業者もあったが、その後50倍、25倍へとレバレッジの上限が引き下げられ、安全性が高まった。取引業者は取引可能な通貨ペアを増やし、店頭では顧客に提示するスプレッド(売値と買値の差)の縮小競争が起きた。

 ―日本の投資家の特徴とは。

 日本人は為替相場の変動に敏感な人が多い。1970年代前半に変動相場制へ移行して以来、日本経済はプラザ合意やリーマン・ショックなどに起因する大幅な為替変動の影響を受けてきた。対照的にドルが世界中で通用する米国では日々の為替レートを知らない人もかなり多い。

 投資家の特性として、相場をテクニカル要因や経済、政治などさまざまな角度から予想して取引することに、一種のアミューズメント性を見いだしている人が多い印象だ。彼らにとって、ドル円相場は勝ち負けよりも参加することに意義がある、いわば競馬ファンにとっての「重賞レース」のようなものだ。その点、少額投資非課税制度(NISA)や個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)で安定的に老後の資産形成を図るための投資行動とはかなり異なる部分があると思う。

 ◇AIが市場を動かす時代

 ―今後の業界について。

 これだけFX取引が日本に根付いた以上、業界が今後さびれるとは思わない。ただ、50社近い業者数は過当競争状態にある。銀行や他の金融サービスが経営統合され業者数が減ったように、業界も淘汰(とうた)が進むだろう。

 法規制により、FX取引を望まない投資家に対する「不招請勧誘」が禁止されている。投資家自ら口座を開設し取引してもらうしかない。生き残りのためには、スプレッド競争や品ぞろえだけでなく、定期的な情報発信などの工夫が必要になる。

 ―トランプ米政権誕生以来、金融市場が不安定さを増している。

 ドル円相場は大統領が就任した1月の1ドル=158円台から4月の139円台まで、円高・ドル安に振れたが、歴代米政権の任期中の値動きと比べて特段に大きいとはいえない。世界的なドル離れも指摘されているが、今のところドル基軸を崩すだけの代替通貨がない。

 短期的な値動きの大きさは、FX取引の投資家にとっては、むしろトレードチャンスが増えてかえって好都合ともいえるが、さまざまな思惑の取引フローが流入し、流動性が高まることで、相場は一方向に動きにくくなる。結果的に、FX取引が市場の安定化に一役買っているともいえる。

 ―人工知能(AI)はFX取引をどう変えるか。

 AIとの親和性は高い。AIのすごさはその情報処理能力の高さに加えて、24時間休みなく取引できる点だ。どんなに優秀なファンドマネジャーやFXトレーダーでも、人間は24時間365日ずっと同じテンションで相場を観察し、売買チャンスを狙うということはできない。

 将棋ではAI活用によりこれまで定石とされていたものとは異なる攻略法が見つかっている。FX取引においても、これまで想像しなかったような違う手法が出てきて、市場に何らかの変化をもたらす可能性はある。(金融市場部 編集委員 宮崎恒裕

 

ウォール・ストリート・ジャーナル
オペレーションF[フォース]