〔財金レーダー〕国際金融都市「回帰」へ政府本腰=資本市場の魅力創出カギ
2020年12月24日 15時18分
国際金融都市の確立に向け、政府が本腰を入れ始めた。来年度の税制改正では、法人税など基幹3税を実質減税。英文での申請応対や英語での相談窓口なども整備し、海外ファンドや金融人材の誘致を加速させる。日本の存在感が今より大きかった30年前、「東京は国際金融都市だった」(自民党議員)。資本市場としての魅力を改めて創出できるかが「回帰」へのカギとなる。
◇選択肢として浮上
国際金融都市への機運が急速に高まったのは、香港情勢の悪化がきっかけだ。中国が7月、統制を強化する「香港国家安全維持法」を施行。民主化を求める市民と警察当局との衝突が連日のように繰り広げられる中、金融取引の規制が強化されるリスクも顕在化した。自民党の片山さつき参院議員は「中国は妥協する気がない」と指摘、香港の自由度が損なわれるとみている。
さらに今年は新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい、大規模な山火事など気候変動に伴う自然災害も多発。リスクへの意識が高まり、「企業が拠点を分散させる動きが出ている」(金融庁幹部)。政府はこうした動きについて、日本が再び投資の選択肢に上る千載一遇のチャンスととらえており、省庁横断で環境整備に注力する。
◇「足かせ」にメス
税制では、法人税と相続税、所得税の税率に事実上メスを入れる。所得税は、ファンドマネジャーが自社の運用成果として高額報酬を得た場合、一定条件を満たせば金融所得(税率20%)とみなし、55%の最高税率の適用から外す。相続税も一定条件の下、日本滞在中に死亡した際の海外資産を課税対象から除外。滞在10年を超えると課税され、「日本では死ねない」とやゆされていた状況を改善する。
法人税は、役員報酬を経費に含める措置を投資運用会社など非上場企業にも適用する。財務書類のインターネット開示を要件として、2025年度まで対応できるよう改正する。いずれも競合する香港やシンガポールに比べ税負担が重く、誘致の足かせとなっていた。
制度面でも海外ファンドなどの参入要件を緩和。要件を満たせば出資者数などの制限を無くすほか、海外での実績などを考慮した上、金融商品取引業者の届け出から登録までの間も、切れ目無く事業できる時限措置も設ける。ワンストップの英語相談窓口も来年1月に開設。これまで一人しか認められていない家政婦の帯同に関する査証(ビザ)要件も緩和する方針だ。
◇投資先乏しく
自治体の動きも急だ。以前から国際金融都市に名乗りを上げていた東京都。10月には香港に相談窓口を新設したほか、誘致や市場活性化の具体策について検討に着手した。大阪府は官民の推進組織を年度内に設置する。福岡市も海外金融機関向けの相談窓口を開設した。
民間では、SBIホールディングス<8473>の北尾吉孝社長が「大阪に国際金融センターを誘致し、商品先物などを取り扱う金融派生商品(デリバティブ)市場を整備するべきだ」として、中核と位置付ける大阪堂島商品取引所の改革を主張する。堂島商取の株式会社化に伴い、初代社長に前金融担当相でSBIエナジー社長の中塚一宏氏を据える。
ただ、シンガポールでは今年1月、投資ファンド向けに、新たな法人形態となる変動資本会社(VCC)設立を認める制度を導入。ファンドの本籍地として登録できることから、既に100社以上が本籍地登記したという。
日本では、中国の電子商取引最大手、阿里巴巴(アリババ)や巨大IT企業の「GAFA」に匹敵する世界的な成長企業が育っていない。香港からの撤退を表明した投資運用世界大手の米バンガードが、アジア本部の拠点に選んだのは上海だ。菅義偉政権下、国際金融都市構想の歯車は一気に回り始めたが、日本市場そのものに魅力がなければ、掛け声倒れになりかねない。(経済部・磯部敦子)
国際金融都市
東京以外にも国際金融センターを目指す動きが出てきた。SBIホールディングスの北尾吉孝社長は大阪・兵庫地区での整備を提唱。福岡県は産学官が連携 …