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〔財金レーダー〕繰越欠損、税制改正の焦点に=コロナ禍で高まる拡充機運

<2020年10月2日>

前田隆平国交省航空局長(右)に、日本航空(日航)問題で競争の公平性確保を求める要望書を手渡す全日本空輸(全日空)の伊東信一郎社長(東京・国土交通省)=2010年1月20日
前田隆平国交省航空局長(右)に、日本航空(日航)問題で競争の公平性確保を求める要望書を手渡す全日本空輸(全日空)の伊東信一郎社長(東京・国土交通省)=2010年1月20日

 経団連、日本商工会議所などは2021年度税制改正要望に欠損金の繰り越し控除制度の拡充を盛り込んだ。経済産業省も同様の要望を近く与党の部会で表明する見通しだ。航空、鉄鋼、石油などの業界大手は新型コロナウイルスの影響などで財務基盤が揺らぐ中、足元の事業年度の税負担を少しでも軽減したいのが本音。同制度を拡充するかどうかが21年度税制改正の焦点の一つとなるが、コロナ禍をきっかけとした拡充機運の高まりには懸念もある。

 ◇銀行・日航優遇と批判も

 税務上の赤字である「欠損金」が生じた際、翌年度以降の黒字(課税所得)と相殺できるのが繰越欠損金制度だ。現在は相殺分を黒字の50%までとしているが、この上限引き上げを経団連などが求めている。また石油連盟は欠損金の取り扱いが欧米に比べて不利として、現行10年の繰越期間を無期限または延長するよう要望した。

 繰越欠損金制度は金融システム危機、リーマン・ショックと激動が続いた平成の経済史でたびたびスポットを浴びた。2000年代に大手銀行グループなどは高水準の利益と過去の不良債権処理で生じた巨額の赤字を相殺。法人税を支払う必要はなかったが、その根拠となったルールとして、公的資金が注入されていた銀行に対する批判と相まって注目を集めた。

 リーマン・ショックによる不況などで経営破綻した日本航空<9201>の再生をめぐっては政治の荒波にもまれた。ライバルのANAホールディングス(HD)<9202>(全日本空輸=当時=)は、公的支援を受けた日航再生に当たり法人税等の減免効果が9年間で約4000億円に達して公正な競争環境がゆがめられたと主張。銀行批判の材料に使われてきた繰越欠損金制度は一転、「日航優遇税制」とのレッテルを貼られてしまった。

 ANAHDの主張に呼応する形で与党は15年度税制改正大綱に、会社更生手続き中の企業の納税額を7年間ゼロにできる特例措置について、再生を果たした企業については対象から除外することを盛り込んだ。名指しはしていないものの民主党政権下で再生を果たした日航を念頭に置いた措置だったことは明白だった。

 言うまでもないが、繰越欠損金制度は特定の業種や個別企業を優遇するための制度ではない。14年6月に政府税制調査会がまとめた法人税改革に関する報告書には、「企業活動が期間を定めずに継続的に行われるのに対し、法人税の課税所得は事業年度を定めて計算されるため、法人税負担の平準化を図ることを目的とする制度」と位置付けられている。

 ◇次は大企業救済か、税制改正のセオリー徹底を

 実際に利用している企業には中小企業も多数含まれており、日商は期限切れを迎える欠損金について繰越期間の延長を認めるよう今回求めている。しかし、こうした過去の経緯を振り返れば、制度の見直しを与党の税制調査会の俎上(そじょう)に載せた途端、コロナ禍に苦しむ大企業救済のための措置の検討が始まったとの批判も生じかねない。

 日本の繰越欠損金制度の国際的な遅れは長年指摘されてきた。例えば在日米国商工会議所(ACCJ)は14年12月に公表した声明の中で、「日本は、その繰越期間の短さ(当時は9年)で、すでに貿易の相手方である経済協力開発機構(OECD)諸国のグループから極端に外れてしまっている」と指摘。その上で米・カナダ並みの20年にすることや、欧州の多くの国が採用した無期限に延ばすよう提言していた。現在のOECD各国との比較や同制度拡充の利点は、それを要望する各業界団体などがもっと丁寧に情報発信しても良いのではないか。

 また、法人減税を拡充するのであれば、それに見合う減収分を、課税ベースの拡大や不要な租税特別措置の廃止などでカバーして税収中立を図るのが税制改正のセオリーだ。税務当局や与党税調はこれを引き続き徹底することで、繰越欠損金制度を拡充しても新たな批判が生じる事態を極力回避すべきだ。(経済部・奥野伸)(了)

 

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