楢崎パランティア日本法人CEO:将来目標、数十社の顧客=コロナ危機、DXの機運
2020年11月02日 10時33分
ビッグデータの解析を手掛ける米パランティア・テクノロジーズの日本法人「パランティア・テクノロジーズ・ジャパン」の楢崎浩一最高経営責任者(CEO)は時事通信の取材に、政府に加え、将来的に日本の大企業数十社による導入を視野に入れていることを明らかにした。新型コロナウイルス危機により、既存制度をデジタル技術で変革するデジタルトランスフォーメーション(DX)の機運が生まれたと指摘。同社のシステムは「政府、企業に必要だ」と強調した。
パランティアは昨年、損害保険大手SOMPOホールディングス<8630>と共同出資で日本法人を設立。楢崎氏はSOMPO執行役常務を務め、SOMPOグループのDX推進も担っている。取材は10月26日に実施した。主なやりとりは次の通り。
◇SOMPO含め複数社が採用
―日本での事業展開の現状は。
ファーストユーザーはSOMPO自身だ。介護事業で入居者の方々の健康状態や生活状況を拝見し、より健康になるようサポートする。(主に民間向けの)「ファウンドリー」というプラットフォーム上にモノのインターネット(IoT)データを代入するシステムを作った。就寝時も呼吸や心拍を確認し、病気の予兆や薬の相性などを包括的に「見える化」し、フィードバックする。保険分野でもさまざまな取り組みを実施している。
国内契約はSOMPOを含めて既に数社ある。試行提供も複数社に行っている。
海外ではマネーロンダリング(資金洗浄)防止などで実績がある。国内金融業界も新規事業などを検討する動きがあり、ファウンドリーは有望なプラットフォームになる。製造業ではサプライチェーン(供給網)の強化や改善で成功例が多数ある。
―システムの特徴は。
データの解析と人工知能(AI)を使った機械学習、統合に強みを持ち、膨大なデータや業務プロセスを持つ顧客に大きなメリットがある。
ビッグデータを蓄える「データレイク」(データの湖の意)が注視されるが、パランティアのシステムを導入すれば、データレイクを構築しなくても同様の効果を1週間程度で出すことができる。一般的にデータレイクを構築するには数年単位の時間と多大の資金、手間がかかるが、パランティアは組織内のシステムに散らばったデータを統合し解析する。その結果、極めて短期間に収益向上や戦略的な課題の解決を実現できる。
顧客にシステムを提供する際の問い掛けは一つだけだ。それは「御社の最大の経営課題は何か」。その答えを持つ顧客に(最も適した)解決支援策を提供する。
―日本企業との契約目標は。
将来的には数十社の顧客に継続的に使っていただくというビジョンを持っている。ただ、裾野を無理やり広げて数を増やすつもりはない。
◇「防衛・安保用システムにあらず」
―パランティアは米国以外の政府への導入を働き掛けている。採用国は20カ国程度か。
数字や顧客名は言えない。公共部門向けの「ゴッサム」と民間部門向けの「ファウンドリー」の両方のシステムを使っている政府や政府機関もある。昔のように政府はゴッサム、民間はファウンドリーときれいに分かれていない。ただ、シェアは大きくなっている。
―日本政府関係者は「防衛、安全保障、貿易管理分野で意見交換している」としている。
ノーコメントとさせていただく。
―政府にとっては、意思決定や情報分析が深化・加速できるシステムか。
その通りだ。国家課題は年々、難しくなっており、パランティアの活躍の場は増えている。(従来のデータ集約・解析手法では)何年も機会費用がかかり、その間に国が危機に陥るかもしれない。官も民も5年かけてデータレイクをつくるのでは遅い。
(システムは)防衛・安全保障用のシステムではなく、武器やスパイ装置でもない。あくまでも課題解決のツールだ。海外政府の利用例では(マクロ経済や社会保障、財政政策での活用など)全てが入っている。
―日本の省庁をめぐり導入目標はあるのか。
こうしなければいけないという目標は決めていない。自信はある。コロナ危機では(米英欧など)多数の政府・政府系医療機関に使ってもらっている。
政府(内のシステム)でも今後、大事な役割を果たす可能性がある。パランティアが、日本の公的セクターでも重要なプレゼンスを持つよう取り組んでいく。
◇コロナ危機で日本に不可欠
―日本のデジタル化は遅れている。
だからこそ魅力的な市場といえる。パランティアは巨大企業の経営課題、国家課題を解決してきた。折衝に当たるのはトップだ。トップは大きな課題に直面しており、トップの決断で導入する動きが出ると思う。
もう一つは、新型コロナウイルス感染拡大による危機だ。日本でもDXの機運が生まれた。パランティアのツールはリモートワークを進めるのではなく、巨大組織を変革させる。世界的に実績があり、コロナ危機の中、日本の企業、政府に必要なツールだ。
菅政権のデジタル化を目指す方向は正しい。残念ながら日本のデジタル化は遅れている。今後の国際競争力に影響するため、一気に進めるべきだ。その中で、パランティアも貢献できれば良いと思っている。
◇「顧客データは見ない」
―政府・大企業が導入する場合、情報管理に懸念も出かねない。
(米グーグルに代表される)GAFAの個人向けサービスのように、パランティアが利用企業・政府のデータを見ることはない。パランティアはツールだ。特に政府向けサービスでは、パランティアが見るべきではないデータが大量にある。政府はパランティアにデータを預けて、作業するのではなく、パランティアのプラットフォームを使い、そのツール上で政府担当者が作業する。
パランティアは(利用者情報の使い方などで)GAFAとは一線を画している。(今年夏には)カリフォルニア州のシリコンバレーからコロラド州のデンバーに本社を移転した。
―利用料が高額との見方もある。
多くの企業のレガシーシステムは整備に巨額の費用が必要となっている。経済産業省が「2025年の崖」と指摘した通りだが、私は今年、既にレガシーシステムの崖に直面していると思っている。(レガシーシステム整備への資金投入と比べると)パランティアのコストははるかに小さい。組織の命運を左右することに使うのであれば、桁違いに安い。
―SOMPOは今年、パランティア本体に5億ドルを出資した。
SOMPOが掲げる「リアル・データ・プラットフォーム」を構築する上で、パランティアは重要な戦略パートナーだ。5億ドルは覚悟の現れだ。SOMPOの首脳、関係者を含めて全員が「素晴らしい投資をできた」と思っている。
SOMPOに来て、「安心安全のテーマパークをデジタルの力で手伝ってほしい」と言われた。その支援を懸命に行う中で、SOMPOとパランティアを結び付けたのは、とてもラッキーであり、満足すべきことだと考えている。(了)
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