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安倍政権、「老後不安」論点回避の構え=年金が参院選争点に急浮上

<2019年7月12日>

2019/06/28 16:08

 

 金融庁報告書をきっかけとした老後資産問題により、年金が参院選の争点に急浮上した。長寿化が進み、一人ひとりの老後への備えがますます重要になっているのは確か。ただ、安倍政権は国民が抱える不安に正面から向き合うよりも、論点を回避しようとする姿勢が透けて見える。

 ◇「年金は鬼門」

 「年金財源は現役世代の保険料負担や税金だ。『打ち出の小づち』など存在しない」。安倍晋三首相は26日の記者会見で言い切った。急激な少子高齢化で、年金を受け取る高齢者は増える一方、それを支える現役世代は減っており、財政面での特効薬はないと強調した形だ。

 2004年の制度改革で、上昇の一途が見込まれた現役世代の年金保険料の上限を固定。同時に「マクロ経済スライド」導入により、現役世代の減少や平均余命の伸びを踏まえた年金給付額の抑制策に踏み込み、支える側の負担が大きくなりすぎないように配慮した。

 その半面、高齢者にとって受給額は抑えられる結果となる。寿命が延びれば医療や介護への支出が増える可能性も高い。財務、厚生労働両省の幹部はそろって「年金で生活全てを支えられるというのは大きな誤解だ」と指摘する。

 「5.5万円の赤字」「不足額は2000万円」とのフレーズが注目されたが、問題となった報告書では今後の給付水準低下を踏まえ、年金だけに頼る老後生活へ警鐘も鳴らしており、これまでの政策と隔たりがあるわけではない。

 しかし、参院選を控えて、野党に「想定外のオウンゴール」(幹部)と揺さぶられた途端、政府・与党は「大きな誤解が生じた」(首相)、「政策スタンスが違う」(麻生太郎金融相)と一斉に突き放した。

 安倍政権にとっては、07年参院選で惨敗の要因となった年金記録問題を思い起こさせるテーマ。自民党幹部は「選挙前の年金問題は鬼門だ。冷静な議論ができなくなってしまう」と嘆く。


 ◇財政検証は公表遅れ

 報告書では、公的年金に依存しない対応策として「資産形成・運用」や「就労継続」など「自助」の必要性が挙げられた。

 こうした動きは進みつつある。17年からは税制上の優遇が大きい個人型確定拠出年金(iDeCo)の対象者が公務員や主婦らに拡大。加入者は増加しており、国民の関心の高さがうかがえる。

 また、公的年金は現在でも60歳から70歳の間で受け取りを開始する時期を選べる。遅らせるほど1回の受給額は多くなり、70歳からでは65歳よりも42%増える。政府は高齢者の就労促進とともに、75歳程度まで受給開始を繰り下げられるよう20年に向け制度改正作業を進める方針。

 他方、正社員になれないなどの理由で自助が困難な人も多い。老後の生活を国民年金だけに頼る場合、満額でも月約6万5000円。保険料の未納期間が長ければ、それだけ受給額は減る。さらに、マクロ経済スライドで年金は実質的に目減りする。今後の制度改正では短時間労働者に対する厚生年金の適用がどこまで広がるかも老後生活を左右するポイントとなる。

 国民の自助を引き出したり、低年金・無年金の人の暮らしをどう支えたりするかについての議論は待ったなしだ。しかし、5年に1度、年金制度の見通しをチェックする財政検証の公表時期は当初6月初旬になるとみられていたが遅れている。基礎的なデータがそろわないままでは、参院選での論戦が深まるか疑問符が付きそうだ。(了)

 

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