〔特派員リポート〕景気底打ち期待に冷や水=ベトナム経済
2020年08月27日 11時44分
世界各国・地域の経済社会に深刻な打撃を与える新型コロナウイルのパンデミック(世界的な大流行)。2019年まで7%台の高い成長を続けてきたベトナムもその影響を免れなかったが、6、7月には個人消費、生産活動で明るい動きが出始めた。「ベトナム経済は4~6月期に底を打った」(銀行エコノミスト)との声が聞かれ、下期にかけてベトナム経済は力強さを増すとの期待が高まった。
そうした中、中部ダナン市で7月25日、新型コロナの市中感染者が約3カ月ぶりに確認され、流行の「第2波」が始まった。新型コロナは全国に広がり、南部のホーチミン市、北部のハノイ市などでも新規の感染者が出た。4月ほどの厳格さではないが、各地で外出自粛などの制限措置が導入されており、年後半の持ち直しが期待されるベトナム経済に冷や水を浴びせる格好となっている。
◇多くの国際機関はプラス成長予想
ベトナム政府は4月、不要不急の外出禁止を含めた厳格な制限措置を全国レベルで展開した。多くの自動車メーカーが生産活動を一時的に休止するなど大きな影響が生じ、4~6月期の経済成長率は0.36%と11年以降で最も低い水準にとどまった。
厳格な措置で新型コロナの封じ込めに成功したベトナム政府は、4月下旬以降、段階的に制限を緩和しつつ、経済再生に向けて税金の支払期限延長や金融緩和などの対策を実施した。こうした政策効果と新型コロナの市中感染ゼロを背景にした安心感から、7月の小売売上高(サービス含む)は前年同月比4.3%増加した。6月のベトナム製造業購買担当者景況指数(PMI)も5カ月ぶりに、好不況の分かれ目となる50を回復し、明るい兆しが出始めた。
世界銀行は最近のリポートで、「ハノイの生活はパンデミック前に戻りつつある」などと分析した。多くの国際機関は、東南アジア諸国の大半がマイナス成長になる中、ベトナムはプラス成長を維持し、下期には内需を中心に徐々に力強さを取り戻すと予想している。
◇「偽りの夜明け」
09年4月、日銀の白川方明総裁(当時)は米国で、バブル崩壊後の日本の金融危機への対応などをテーマに講演した。白川氏は1990年代の低成長期に、「何回か一時的な回復局面を経験した」と説明。「ただし、このことは、経済がついにけん引力を取り戻したと人々に早合点させる働きをした。『偽りの夜明け』とも言うべきものだった」などと振り返った。「人間の常として、物事が幾分改善すると楽観的な見方になりがちだ」と語り、さまざまな情勢を注意深く見極める重要性を訴えた。
ベトナム経済の先行きは、新型コロナの「第2波」で変化が生じつつある。7月下旬以降、約1カ月間で、新規の市中感染者は500人を超え、死者も20人を上回った。ブー・ドク・ダム副首相は、「新型コロナとともに、安全に暮らすための措置を講じる必要がある」と述べ、新型コロナとの戦いが長期戦になることをにじませた。
ベトナム政府は新型コロナ「第2波」への対処で、感染拡大を抑止しつつ、経済再生を目指す方針を繰り返し強調する。ベトナム経済が4~6月期に底を打ったのか、それとも「偽りの夜明け」にすぎなかったのか。今後の「第2波」の行方とともに、経済の先行きも予断を許さない状況となっている。(ハノイ支局 北川勝弘)
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