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気候変動対応、金融機関が持続性を左右=日本総合研究所・大嶋氏〔PR〕

2022年09月29日 15時00分

日本総合研究所 大嶋秀雄主任研究員日本総合研究所 大嶋秀雄主任研究員

 地球規模の気候変動が企業活動や社会生活を持続する上で大きな脅威となっている。一方、政府や企業が気候変動にどう対応すべきかについては国内外で議論が続いている。気候変動対策の実効性を高めるための課題は何か、金融やマクロ経済の観点から気候変動問題を分析する日本総合研究所の大嶋秀雄主任研究員に聞いた。

--気候変動に関連した投融資の実情は?

 環境、社会、企業統治を重視したESG投資や気候変動対応に資金使途を限定するグリーンボンドなど、金融業界では気候変動対応に関連したビジネスが制度の整備に先行する形で拡大している。金融機関はあらゆる業態と接点を持ち、高排出セクターとされる業種とも取引があり、気候変動対応に関連した施策の要と言える。

 ただ、気候変動対策など経済社会の持続につながるサステナブルファイナンスの正確な規模は不明だ。運用会社を通じた上場企業株への投資やグリーンボンドの起債などは金額がある程度把握できるが、グリーンローンなどの融資は金融機関と顧客の個別契約のため情報は十分に開示されていない。グリーンボンドなどの債券でも、少数の投資家が保有する私募債の正確な発行額は分からない。

--気候変動対応の投融資は増えていくのか?

【AFP=時事】【AFP=時事】

 気候変動対応の投融資がすぐに急減するとは考えにくいものの、持続的に拡大できるかには疑念もある。企業にとって、脱炭素は長期的なリスクヘッジにはなるが、利益に直結しないことが多い。気候変動対応の設備投資などの目的は、生産力向上ではなく排出量削減そのものであるためだ。最近の気候変動対応の加速は、国際世論の後押しによる政策当局や機関投資家を含む金融機関、グローバル企業などのリーダーシップに依存する面が強い。経済環境が悪化したり、昨今のブームが去ったりした場合には、気候変動対応やそれに呼応した投融資の拡大を持続できなくなる恐れがある。

--気候変動対応の投融資を増やしていくにはどうすればいいのか?

 気候変動対応がもたらす社会的な価値は、少なくとも今は経済的な価値と同等とはみなされていない。脱炭素のために配当金を大幅減額すると企業が宣言すれば、投資家から反発を食らうだろう。サステナブル(持続可能)であることが付加価値と認識され、気候変動対応が利益につながるよう変えていくことが脱炭素の成否のカギを握る。

 例えば、有機野菜は通常栽培品より高い値段で販売されている。健康にいい、農地など環境に過度に負荷をかけないといったプラスの側面に消費者が価値を認めているからだ。広く財やサービスに対してサステナブルであることを高く評価する消費者が全体の3割、4割と増えていけば、気候変動対応が利益につながるようになり、取り組みを加速させることができる。脱炭素対応が業績に直結すれば金融機関も投融資を拡大しやすい。もっとも、消費者の脱炭素意識の醸成には時間が掛かる。短期的には、政府がインセンティブや規制、ペナルティを導入して、ビジネスへの影響を「見える化」することが重要と言える。

-中小企業の脱炭素化をどう支援する?

 国内の炭素排出量の1~2割を占めると推定される中小企業への目配りも重要だ。脱炭素には、製造工程の見直しを含めた様々な対応が必要だが、中小企業は資金も人材も不足している。政府は助成金メニューを充実させているが、多くの中小企業は何をすべきか分からず、助成金までたどり着かないのが現状だ。

 まずは取引先である大企業が中小企業に働き掛けていくことが重要になる。幅広い中小企業と取引のある金融機関に期待される役割も大きい。金融機関は、中小企業に脱炭素の意義を説明し、脱炭素の実現に向けて経営者と一緒に知恵を絞ることが求められる。金融庁が金融機関に求める、融資以外の手段を通じた中小企業支援にもつながるだろう。

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用語解説:
・ESG:環境(Environmental)、社会(Social)、企業統治(Corporate Governance)の英頭文字を取った造語。持続的成長のため企業が重視すべき項目として、E(環境)では地球環境保全が、S(社会)では職場でのダイバーシティ(多様性)の確保や格差の解消などが、G(企業統治)では情報開示や法令遵守で裏付けられた企業統治体制の確立などがそれぞれ挙げられる。 ESGを重視する企業の株式や社債を対象とするのがESG投資である。

・グリーンボンド:企業が団体、地方自治体が発行する債券のうち、調達した資金の使途を環境保全に限定するものの総称。資金使途は脱炭素に向けた設備投資や再生可能エネルギーの開発、緑化など幅広い。グリーンボンドの発行によって、企業は資金調達ルートが多様化し、グリーンボンドを購入する投資家は投資商品の分散によるリスク低減が可能になる。債券の発行体と投資家にとってESG経営の深化につながり、環境保全に必要な資金の安定供給による社会全体の利点も大きい。調達した資金を環境保全に限定する融資はグリーンローン。

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