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〔商品ウオッチ〕国内食肉在庫、過去最高水準=コロナ禍と五輪延期のダブルパンチ

2020年06月26日 11時21分

AFP時事
AFP時事

 牛や豚など国内の食肉在庫が過去最高水準となり、初めて60万トンを超えた。新型コロナウイルスで外食産業の需要が急減し、東京五輪開催で見込んでいた訪日外国人旅行者(インバウンド)の需要が消失したことが背景にある。コロナ感染の収束には依然不透明感が強いため、業界関係者らは「消費動向が読めない」と不安げだ。

 農畜産業振興機構によると、4月末の食肉在庫量は前年同月比16.1%増の60万3873トン。1994年度以降の記録では最も多い。個別でも、牛が15万7000トン、豚が23万8000トン、鶏は17万7000トンと11~20%増加し、いずれも在庫レベルは過去最大規模にある。

 在庫量はこの10年間、40万トン台を中心に推移。しかし、3月下旬以降のコロナ感染爆発への危機感の高まりや、4月の緊急事態宣言の発令を経て、全国的な外出自粛と休業が広がり、その影響は外食産業を直撃した。日本フードサービス協会がまとめた5月の全店売上高は、ファミリーレストランが前年比50%減、パブ・居酒屋は90%減となり、同協会は「4月に続き、壊滅的な打撃を受けた」と話す。

 一方、環太平洋連携協定(TPP)や、1月に発効した日米貿易協定により関税が下がったため、輸入量は増加傾向にある。前年やコロナ禍前に契約した分が、3月から4月にかけて絶えることなく到着した。3月に東京五輪開催の1年延期が決定。「インバウンド需要を当て込み、商社や食肉メーカーは背伸びをして輸入量を増やしていただけに、その反動は大きい」(食肉業界団体幹部)ようだ。

 ◇外食チェーン、相次ぐ閉店

 5月25日に緊急事態宣言が全面解除され、1カ月が経過した。6月19日には全国で人の移動も解禁されたが、景気の先行きを楽観する向きはない。「繁華街を中心ににぎわいが戻る感じはなく、先が見えない」と、外食業界関係者は打ち明ける。食肉需要を支える中核の外食産業では、外食チェーンの閉店が相次いでいる。ファミレスを展開するジョイフルは、7月以降、約200店の閉店を順次進める。ロイヤルホールディングスは、2021年末までに約70店舗、居酒屋大手のワタミは7月をめどに65の直営店をそれぞれ閉める計画を公表している。

 農畜産機構は、6月までの在庫動向について、牛、豚、鶏で大幅に増えると予測する。コロナ感染で、多くの食肉加工工場が一時閉鎖、あるいは減産した米国を中心に輸入量は減る見通し。しかし、国内生産は、五輪開催や訪日外国人の増加トレンドを踏まえ、家畜の肥育頭数を計画的に増やしてきたこともあり、コロナ禍で状況が一変しても、減少は見込めないためだ。

 ◇働き方改革の行方

 外食産業の低迷とともに、食肉需要の回復にも時間がかかりそうだ。値頃な価格と調理のしやすさから、豚肉や鶏肉は家計での購入割合が高かったが、外出自粛や巣ごもり需要の増大で、家庭での消費は一段と増えると予想される。一方、価格帯が高めの牛肉は、ファミレスや焼き肉店などの外食に占める比率が高く、中でも和牛は、ディナーレストランなどの苦戦、インバウンド需要の冷え込み、主力の中国への輸出急減が見込まれ、需要の減退は当面続くとみられる。

 コロナ感染「第2波」への警戒、特効薬ワクチンの登場時期の不透明さなどを踏まえると、外出を控え、自宅での食事を優先させる行動パターンは今後も変化はなさそうだ。一方、企業のフォーマルなパーティーや宴会、会食の自粛は続く。リモートワークによる在宅勤務の普及や、フレックスタイム制の導入促進などの動きが一段と浸透すれば、食の部門でも新たな生活スタイルが確立される可能性もある。

 需要トレンドについて、大手食肉メーカー関係者は「コロナ禍を契機に大きく進み始めた働き方改革がどう定着していくかに注目している」と話す。外食産業では、既にコロナ後をにらんだ持ち帰りサービスの拡充などへのシフトが始まっており、食産業全体がビジネスモデルの転換を迫られていると言えそうだ。(小田・6月26日)

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