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片岡日銀審議委員会見詳報(3月3日)

2021年03月03日 17時28分

日本銀行の片岡剛士審議委員=2019年2月日本銀行の片岡剛士審議委員=2019年2月
Q、午前中のあいさつで金利の引き下げについて言及があった。かねて金利引き下げを主張されてきたが、一方でマーケットではマイナス金利の深掘りは副作用が大きすぎて実行できないという見方がある。日銀と市場とのコミュニケーションがうまくいってないのではないか。

A、私自身、直近の金融政策決定会合でも言っているが、金利を短期、長期両方において低位に推移するような形にした方がいいのではないかと言ってきたが、これ自体は現行のイールドカーブコントロール(YCC)の枠組みの下で、より緩和的な基調を強めた方が物価安定の目標を早期に達成できるのではないか、そういう観点から主張した。より具体的に言うと、現行のYCCの枠組みは経済を過熱もさせない、ないしは停滞もさせないという意味で、均衡実質金利、均衡実質イールドカーブ、そことの対比において現状のイールドカーブがどの程度の形で推移するかどうか、それによって緩和度合いを図るということだが、現状の均衡イールドカーブとの対比で言うと、現状の実際のイールドカーブをより低位に寝させた方がいいのではないかというのが私自身の認識だ。こうしたような低金利を続けることになると、特に金融機関の方にとってそれは貸出金利の低下につながりやすいということは指摘の通りだと思う。こういう低金利環境が長く続けば、それによって金融機関の利ざやが縮小していくことにつながるので、それによって、ひいては金融仲介機能にも悪影響が及ぶのではないか、こういう指摘を浴びることは重々承知している。

 ただ私自身としては、そうした金融仲介システムが近い将来、本行の行っている金融政策によって毀損(きそん)されるのではないか、ないしは私が主張してるような政策を行うことによって金融仲介機能を損なうとは考えていない。

 先ほどコミュニケーションという話があったが、こうした認識に対して、それは民間の方々、ないしは市場の方々がそういうふうに理解していないのだからコミュニケーションの問題であると言われれば、その通りと言わざるを得ないと思うが、そうしたような誤解というわけではないが、考え方に対して、本行としての金融政策の考え方をしっかりと説明していくという趣旨も含んだ形で、今回点検作業を行っているし、その結果を次回の金融政策決定会合で公表していくと私自身は認識している。

Q、点検で効果と持続性を高めると講演でも指摘してるが、かねて主張している金利のさらなる引き下げとの関係をどのように見ているのか。足元で長期金利が上昇したが、金利上昇すると緩和効果が発揮されない。足元の金利についての考えは。  

A、最初の点検の件だが、講演原稿で申し上げた通り、私自身はより効果的で持続的な金融緩和を実現するための点検についてはこれまで行ってきた政策の全てについて経済や物価に与える効果を分析・検証することが重要。点検結果次第だが、結果を受けてこれをどうしていくか考えていく必要があるし、コミュニケーションの観点からみても、足元物価が2%に届かない現状を踏まえると、先々の動向についてどういうアウトライン、どういう形で金融政策を運営していくか、そのことによってマーケットの方々に対しても信認を勝ち得ることが必要だと思う。そのための絶妙な素材となるようなものが出れば良いと個人的には考えている。

 そうした話と実際私自身が主張してきた話がどう関係するかだが、これ自体は私自身は常に足元の経済動向、物価動向、それから自分が考えている先行きの経済動向をみながら、そこを前提としながら本行として行うべき当面の金融政策はこれであると言っている。あまり直接的に点検の内容や作業とは関係ないかと思う。ただ、もちろんこれまで行ってきた金融政策が目標と照らしてどのような効果があり、それが2%の目標に対し有効かどうかという観点に立てば今行っている点検は有用であると考えている。そういう意味では、どういう内容かは申し上げられないが、今行っている作業、議論は非常に私個人が今後の金融政策を考える上でも有用であると感じている。

 2点目の海外金利の話だが、アメリカの長期金利が上昇し、そのことによって相場が変動しているということだが、アメリカの長期金利上昇の背景は、ひとえにアメリカの財政政策の影響、それから先行き財政政策ないしはワクチンの導入によって景気が大きく浮揚する、物価上昇率も高まっていくのではないかという先々の期待が長期金利上昇につながっている。わが国でも多少金利が上昇しているところがあるが、そうした要因で海外の影響を受けて上がっている側面もあるし、国内では政府の経済対策も大規模なものが行われる予定なので、そうしたことを踏まえての動きだと思う。

 こうしたことを踏まえて、本行の金融政策としてどうなのかということだが、これも本行においては、長期金利については0%を中心にプラスマイナス0.1%の倍の範囲内で金利を維持している。そこまで許容するという方針の下で金利をコントロールしているので、その方針の下で粛々と運営しているということだと思う。もちろん突発的に金利が大きく上昇したりする局面があれば、弾力的な措置を講じるということもあるが、現行ではそこまでの状況とはみていない。

Q、緊急事態宣言の影響について伺う。1都3県について今週末が期限だが、解除に慎重な意見もある中で延長された場合の経済、物価への影響を教えてほしい。

A、これは先行きどうなるかは実際起こってみないとわからないところもあるし、実際緊急事態宣言が延長されるかどうか不明のところもあるので仮定の質問にはあまり答えたくないが、仮に延長ということになれば現状起こっている飲食店等々、サービス業、消費に絡むところへの業務の制限が続くことが見込まれるので、そうしたところへの影響が持続することはまず一つ考えられる。そうしたところを経由して家計消費への影響も出てくるかもしれない。いずれにせよ本行では4月の決定会合後に展望リポートという形でそこら辺の状況も踏まえた形で別途経済見通しを提示する予定なので、仮に大きな影響が出そうだとか、懸念すべきことがあるいうことであれば、そこで見通しを修正していくことになるのかなと思う。

Q、雇用関係について。サービス業が厳しい局面が続く中で、悪化のリスクはどう見ているか。

A、非常に重要なポイント。現状やはり雇用市場に対してあまり波及していないというのは言う通りだと思う。こうした状況になっているのは一つ、わが国の雇用市場での足元の景気の動きに影響を受ける要素以外にも底流として人手不足の流れが持続しているのがもう一つの背景と思う。人手不足という話については、年を追うごとに高齢化が進み、特に地方になればなるほどその影響が深刻になる。情報化とかそういう流れにはコロナ後により進んでいくとなると、そうした人材が必要であるというニーズは、景気が良くなる、悪くなるという循環的な要因にかかわらず人手不足ということになるので、そうしたところがある意味下支えの一つになっているのではないか。あとは足元の景気の動向についてもきょうの群馬県の金融経済懇談会の中でも指摘されたが、リーマン・ショック前後の落ち込みと比べるとあまり影響は深刻でない、甚大ではない、というようなご指摘ももらった。ある意味、そうしたところというのはいち早く政府、日銀を含め資金繰り対策に動いて、企業の方の不況に対し資金を提供して実際働いている人たちの雇用を守ろうとしているというところがとても影響しているのではないかと思う。

Q、午前中の講演で、金融緩和で成長投資を後押しすることは感染の拡大と必ずしもトレードオフの関係にはない、という言及があったが、成長投資のイメージは。成長投資の後押しに向けてさらに取り組みを模索する必要性は。

A、成長投資について、現状がどういう局面にあるのか、まずわれわれは認識しておく必要がある。特にコロナという状況があるが、それが徐々に感染の状況が変わっていくという局面では、やはり日本経済、世界経済がこれまでとは大きく様相が変わってくるのではないか、と認識している。同じようなことが、例えばスペインインフルエンザがまん延した第1次世界大戦直後あたりでも日本の社会、風俗みたいなものが大きく様相が変わってきた、ということがある。よくも悪くも状況が変わってくるということは頭に入れておく必要がある。そうした変化に経済として対応していくためには、私は設備投資が必要だし、そうした新しいものに対応していこうという企業のマインドを金融政策の側からしっかり後押ししていくことが必要だ。もちろんコロナ禍の状況においては、足元、資金繰り支援策を中心として何よりも今、現状どうしたらいいのか、というところに注力するのは当然だと思うが、だんだん感染症の動向が長期化する中で、ワクチンなどの導入も進み始めて、先行きについて展望をみはじめていけるという状況においては、特に企業の前向きな設備投資をサポートしていくのが必要だ。あえて対象を絞るのではなく、例えば情報化投資もそうだし、その他企業が新たな挑戦をしたい、ということがあれば最大限サポートしていきたい、ということだ。

Q、上場投資信託(ETF)の現状の買い入れに問題点はあるのか。

A、ETFの買い入れについては、一つに目的があるのだが、目的に照らして現状の買い入れが目的を達成する形になっているのか。つまり市場のリスクプレミアムを低下させるという役割があるのかどうか、ということを点検することが重要だ。本行が行っている政策が株式市場をゆがめているのではないか、という指摘もあるが、私自身は本行が買い入れている見るETFの金額を見る限りにおいては懸念されているような話は当たらないのではないかと思う。現状の点検の中で、いただいている指摘に対しては、どのような回答があるのか、検討している段階なので、そこは3月の決定会合の発表を見てほしい。

Q、点検めぐる議論では、場合によって緩和強化と受け止められない話も出ているが、懸念しているのか。

A、点検でどういう議論をしているかは、そこは次回の金融政策決定会合で公表される結果を見てほしい。私自身は別に自分の主張を何か違う要因で、こっちの方向にした方がいい、とか、あっちの方向にしたほうがいい、とかそういう趣旨で今緩和をすべきだといっているわけではなくて、あくまで足元の日本経済、ないしは物価安定目標との兼ね合いで今何をすべきか、そういう視点で言っているのを理解してほしい。(了)
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