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〔銀行レーダー〕公的資金「おかわり」は困難=注入地銀に高まる再編圧力

2021年02月10日 14時02分

記者会見する菅義偉官房長官(当時)=2020年9月、首相官邸記者会見する菅義偉官房長官(当時)=2020年9月、首相官邸

 菅義偉政権下で、政府が公的資金を注入している地方銀行への再編圧力が高まっている。超低金利や人口減少に新型コロナウイルス禍が加わり収益環境は厳しさを増しており、単独では公的資金の完済後に財務基盤が安定する絵が描きにくいためだ。税金が原資のため「おかわり(再注入)は難しい」(金融庁関係者)情勢。注入行は資本の厚みを増すため、経営統合や合併など抜本的な改革を迫られている。

 ◇5年以内に返さねば

 現在、改正金融機能強化法に基づく公的資金が入っている地銀のうち、5年以内に返済期限を迎えるのは9行。期限に達すれば優先株が普通株に転換され、国の経営への関与が強くなる。各行は経営の独立性維持に向け、日銀のマイナス金利政策などを背景とした収益低下に苦しむ中でも、利益剰余金を積み上げ期限前の完済に備えてきた。

 しかし、昨年から続くコロナ禍で状況は急変。取引先企業の資金繰りや財務上の課題が表面化し、地銀に踏み込んだ支援が求められるようになった。銀行側にとって、貸し倒れリスクを吸収するには十分な資本余力が欠かせない。金融庁も昨年春ごろ、「まだ返さなくていい」(関係者)と注入行に伝え、前倒し返済で力をそがれないよう注意を促した。ただ、期限は迫っている。

 コロナ禍の長期化は、地銀経営を明確に圧迫している。102行(当時)の2020年9月中間決算(単体)をみると、貸し倒れに備えた与信関係費用は前年同期比で3割近く増加。この結果、純利益は1割減った。超低金利や人口減少でただでさえ収益力が落ちている。注入行は計画通りに剰余金を積み立てるのが難しくなっている。

 こうした中、大きく経営体制の転換に踏み切ったのは、60億円の公的資金を抱える福邦銀行だった。今年1月、同じ福井市内に本店を置く福井銀行<8362>との資本提携で合意。福井銀が福邦銀の子会社化を念頭に、50億円の第三者割当増資を引き受ける方向で詰めの協議に入った。

 ◇福邦銀の次は

 福邦銀の自己資本比率は8.05%だが、公的資金を除いた場合は単純計算で5.6%程度まで下がる。規制水準の4%からは距離があるが、この状況で返済すれば資本余力が低下して融資を抑制しかねない。福邦銀行の渡辺健雄頭取は「厳しい環境下でやっていくには、福井銀行と関係強化することが地域のために良いと判断した」と説明した。

 そこでたどり着いたのが、今回の枠組みだ。具体的には、公的資金を完済した上で福井銀行から増資を受け入れ、自己資本比率を一定程度保つ。先例が多い持ち株会社の傘下に2行が入る経営統合は、監督と執行の分離など体制整備にコストがかかる。親会社となる福井銀行が主導する形で、事務共同化など同様の効果を出せると見込んだ。

 この他、昨年9月に青森銀行<8342>との統合観測が報じられた、みちのく銀行<8350>も公的資金注入行だ。両行は19年9月に包括提携で合意。連携強化を協議してきた。日銀が20年11月、経営統合や経費削減を進めた地域金融機関に対し日銀に預けている「当座預金」に上乗せ金利を支払う制度の創設を発表すると、みちのく銀行の藤沢貴之頭取は「(制度の活用は)選択肢の一つ」との認識を示した。

 ただ、その後の両行の動きは緩慢だ。多くの地銀は経営統合や合併に対し、ライバル行と争った歴史や地元の銀行としての看板への自負から抵抗感を示してきた。こうした背景から、複数の地銀が業務の共同化を中心とした「アライアンス」や、インターネット金融大手SBIホールディングス<8473>の出資受け入れといった異業種提携が先行してきた。

 そうした提携の動きは、菅首相が昨年9月の就任前に地銀について「数が多過ぎる」との認識を示し、経営統合や合併の推進に意欲を見せて以降、むしろ加速している。統合よりも「採算がとれない業務は外部委託する方が良い」(地銀関係の有識者)との見方は広がっている。

 しかし公的資金注入行については、自主独立を維持するための残り時間が区切られている。「返済できないのに税金は投じられない」(金融庁関係者)との声がある以上、再注入による問題の引き延ばしは期待できない。よほど抜本的な改革案を示すことができれば別だが、資本を厚くする方向にかじを切らねば、その影響は地域の顧客に及ぶことになりかねない。(経済部・石田恵吾)(了)

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