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〔潮流底流〕菅首相、背水の再宣言=延長含み、国民の協力鍵―政権さらなる苦境も

2021年01月07日 21時27分

 新型コロナウイルスの感染急拡大を受け、菅義偉首相が緊急事態宣言の再発令を決断した。感染拡大を抑える「最後のカード」とされ、まさに背水の陣だ。国民の協力が鍵を握るが、関係者の間には懐疑的な見方が強く、早くも延長含みとの見方が広がる。感染状況の悪化を止められなければ夏の東京五輪開催に赤信号がともりかねず、菅政権はさらなる苦境に追い込まれる可能性もある。

 ◇「1カ月では収まらない」

 緊急事態宣言発令を決めた7日の政府対策本部後の記者会見。首相は「この状況を克服するために、もう一度制約のある生活をお願いせざるを得ません」と訴えた。

 今回の宣言は首都圏の1都3県を対象に1カ月の予定で、飲食店に対する営業時間の短縮要請が柱。昨年4月の宣言より絞り込んだ。首相には「前回のように経済が大きく落ち込む事態は避けたい」との思いがにじむ。

 だが、専門家の見方は厳しい。京都大の西浦博教授は、飲食店の時短などに限定した「緩やかな対策」では東京都の感染者数は2月末になっても1日約1300人に上るとの試算を公表。政府分科会の尾身茂会長は5日の会見で、宣言解除について「1カ月未満では至難の業」と指摘した。

 7日の基本的対処方針等諮問委員会では、県境をまたぐ移動の制限を求める声や、宣言解除の目安を2番目に深刻な「ステージ3」としている政府案への懸念が専門家から相次いで紛糾。予定を約30分超過した。背景には、年末からの加速度的な感染急増に直面しても、人の動きが目に見えて減少していないことがある。政府関係者は「国民は言うことを聞かないだろう。1カ月では収まらない。延長になる」と悲観的だ。

 政府・与党は、時短に罰則を設けて強制力を持たせ、協力すれば給付金を支給する特別措置法改正案を2月初めに成立させる方針。同月中のワクチン接種開始へ準備も急ぐ。

 ◇首相、求心力に陰り

 首相は再発令の検討を表明した翌5日、かつて対立を繰り返した麻生太郎副総理兼財務相を首相官邸に招き、昼食を共にした。昨秋の自民党総裁選で菅氏支持の細田、麻生、竹下3派連合を形成した麻生氏との連携は、政権基盤の安定に不可欠。感染拡大が抑えられず「火だるまになった菅政権の姿が見える」と党関係者が冷ややかに眺める中、足場固めに腐心しているようにも見える。

 衆院議員の任期満了を10月に控え、首相が4月25日の衆院北海道2区、参院長野選挙区の両補欠選挙に合わせて衆院解散・総選挙に踏み切るのではないかとの観測も浮上した。政府のコロナ対策への不満や吉川貴盛元農林水産相の現金授受疑惑などで自民党はいずれも苦戦が予想されており、2敗となれば政権には深刻な打撃となる。先に解散することで局面転換を図るとの見立てだ。

 収束の見通しが立たないコロナ禍や相次ぐ「政治とカネ」の問題、内閣支持率の急落で、首相の求心力には陰りが見え始めた。自民党の下村博文政調会長は5日のBS番組で2補選に触れ、「両方負けたら政局になる」と発言。党幹部は、下村氏が9月末の党総裁任期切れに伴う総裁選に意欲を示したとの見方を示し、政府関係者も「もはや総裁選は無風にはならない」と漏らした。

 東京五輪・パラリンピック後の秋の解散論も根強い。二階派幹部は7日、「五輪後には国民の歓声が政権に向かう」と語った。だが、感染を抑え込めずに中止となれば、予定通りの開催を掲げる首相は逆に瀬戸際に追い込まれかねない。

 18日には通常国会が召集される。野党は国民の不満を好機と捉え、首相を徹底追及する構えだ。昨秋の臨時国会で答弁能力への不安を露呈した首相が、態勢を立て直せる材料は見当たらない。

 自民党には、首相自身の手で解散することすら困難との見方も出始めた。「党の支持率は安定している。選挙前に顔を代えればいい」。政権と距離を置く岸田派の中堅議員は「菅降ろし」の可能性に言及。党関係者は「春になっても感染が収束に向かっていなければ、党内がうごめき出すかもしれない」と予想した。(了)

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