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〔金融観測〕プルーデンスも政府と中銀の線引きあいまいに=特別当預の「補助金」で

2020年11月17日 15時58分

北海道東部地域の政財界関係者とのウェブ懇談会後に記者会見する政井貴子・日銀審議委員=16日午後、東京都中央区
北海道東部地域の政財界関係者とのウェブ懇談会後に記者会見する政井貴子・日銀審議委員=16日午後、東京都中央区

 日銀は収益力強化や経営統合した地域金融機関に資金支援する特別当座預金制度の導入を決めた。菅義偉首相が主張する地銀再編を後押しするもので、政府への配慮が浮き彫りとなった格好だ。本来は国庫に納付されるべき日銀の利益を元手に、経営統合した個別金融機関に事実上の「補助金」を支払うだけに、中央銀行ではなく政府の財政政策の範ちゅうという意見もある。地域経済を支えるために金融基盤を強化するという理念は手放しで共感できるのに何となく後味の悪さが残る。プルーデンス(信用秩序維持)政策でも政府と中銀の線引きがあいまいになってきている。

 「金融政策とプルーデンス政策のすみ分けなど、さまざまな意見があることは承知しているし、正直考えさせられる部分もあった」。10日に記者会見した日銀の政井貴子審議委員は、特別当預の評価について歯切れが悪かった。

 政井委員は「少し先を見据える視点から地域金融機関へのインセンティブ付けをするという大きな考え方に違和感はない」としながらも、金融政策決定会合ではなく、通常会合での検討となったことや、決定のタイミングなどに関して議論があったことを示唆した。

 日銀の執行部は、個別金融機関の経営問題はプルーデンス政策であり、通常会合で決定すべきと主張し、押し切ったもようだ。ただ、通常会合は決定会合と違って議事要旨や主な意見、議事録などによる情報開示がない。同制度について議決も行われたもようだが詳細は不明で、中銀として踏み込んだ決断を下した背景は、この先も公にならない可能性が高い。

 特別当預をめぐっては、日銀の合併促進スタンスがかなり注目を集めたが、一方で、本業の粗利益に関する経費比率(OHR)の改善を促す取り組みはもう少し評価されてもよさそうだ。

 人口や企業数の減少など構造要因に加え、新型コロナウイルス禍も重なり、地方銀行などの収益改善や経費削減は待ったなしの状況だ。同制度を活用するために経営統合する地銀はあまり考えられないが、「なんとか地域の金融仲介の円滑化を支援しようという日銀の切実な思いは伝わる」(東北地方の第二地銀)として、制度利用に前向きな声も少なくない。

 日銀によると、制度利用の前提となるOHRの改善率は、2022年度で19年度比4%以上がめど。近年の実績では全体の約1割程度が該当するという。利用のハードルは決して低くなく、地域金融機関の本気度が試される。

 日銀内では、菅政権誕生のかなり前から地域金融機関の基盤強化促進策を検討していた節がある。経営統合にも付利を認めたのは、地銀の水面下での動きを阻害しない日銀なりの配慮というのが実情かもしれない。ただ、発表が菅政権誕生直後のタイミングとなったため、首相の地銀再編論と共鳴し波紋を広げる結果となった。

 日銀は現在、同制度の詳細を検討中だ。地域金融の経営基盤強化という理念を踏まえると、単純に持ち株会社の下にぶらさがるだけで、収益力向上の道筋が描けない経営統合には制度利用を認めないなどの工夫も求められそうだ。(経済部・宇山謙一郎)

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〔金融観測〕について
金融担当記者による深掘り記事です。日銀の政策運営方針や金融界のホットなテーマなどを解説します。

 

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