〔金融観測〕統合地銀にプラス付利、副作用軽減も=マイナス金利政策に逆行
2020年11月11日 16時31分
日銀が経営統合した地域金融機関に事実上の補助金を払うという奇手を打ち出した。菅義偉首相の持論である地銀再編と足並みをそろえた格好だが、当座預金にプラス金利を支払うのは、大規模緩和の一環として導入しているマイナス金利政策の思想と逆行する。長引く低金利で地銀の収益環境は厳しさを増すが、マイナス金利の解除は金融引き締めとなるため、現実的ではない。日銀としてはプルーデンス(信用秩序維持)政策としてプラス金利を付利することで、マイナス金利政策の副作用軽減を図る狙いもありそうだ。
◇短期金利に上昇圧力も
日銀が10日の政策委員会(通常会合)で決めた「地域金融強化のための特別当座預金制度」は、地銀や信用金庫を対象に①収益力や経費削減による損益分岐点の一定以上の引き下げ②合併や経営統合、連結子会社化の決定―などを行った場合、日銀当座預金にプラス0.1%を付利する仕組み。3年間の時限措置で、すべての金融機関が対象となれば、日銀の支払金額は年間400億~500億円程度になるという。
日銀の当座預金には現在、マイナス0.1%、0%、プラス0.1%の3階層の適用利率がある。短期金融市場で裁定取引が行われており、無担保コール翌日物金利の加重平均は、おおむねマイナス0.01~マイナス0.03%台前後で推移している。プラス0.1%の適用が増えれば、金利上昇圧力が強まる可能性がある。
日銀が10日発表した同制度の補足資料にも、「金融調節を円滑に遂行する観点から、必要な場合にはあらかじめ定めた取り扱いと異なる扱いを行い得る」とわざわざ表記してあり、翌日物金利が予想外に上昇する場合は、制度見直しも示唆している。
◇リバーサル・レートに直面か
元日銀審議委員の木内登英・野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストは「当座預金への上乗せ金利で、翌日物金利にも多少上昇圧力がかかるだろう。長めの金利にも上昇圧力となる。これはマクロ金融政策の観点からは、金融引き締め策のように見える」と指摘する。
日銀がプラス金利を付利してマイナス金利政策の影響を弱めているのは、今回のプルーデンス政策に始まったことではない。今春以降に断続的に打ち出した新型コロナウイルス対応策も同じだ。
無利子・無担保融資を実施した金融機関の当座預金に対し、実施状況に応じてプラス0.1%を付利している。コロナ対応特別オペレーションの利用は拡大の一途をたどり、10月23日現在は47兆円超に膨らんでいる。
日銀がマイナス0.1%の政策金利を維持する一方で、プラス0.1%の付利の拡大に傾いていることは、マイナス金利政策を「骨抜き」にして副作用を軽減するステルス正常化の雰囲気が漂う。そして、これは事実上リバーサル・レートに直面していることを示唆する。(経済部・宇山謙一郎・11月11日)
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