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〔銀行レーダー〕地銀、菅首相に戦々恐々=再編論、存在意義問う

2020年10月01日 15時51分

 地方銀行再編に前向きな菅義偉氏が首相に就き、地銀界が戦々恐々としている。人口減少や超低金利で収益環境が悪化する中、経営統合・合併は財務健全化の有力な方策だ。しかし、地域の盟主の立場が揺らぐだけでなく、合理化の中で顧客との関係が変容する恐れがある。地域に根ざす銀行の存在意義も問われかねず、政府の横やりを嫌うなら自ら抜本的な経営強化策を打ち出す必要がある。

 ◇「数多過ぎ」再燃

 「数が多過ぎる」。菅氏は9月2日に行った自民党総裁選への出馬会見で、アベノミクスのけん引役だった日銀の大規模金融緩和策の継続について問われた際、自ら進んで地銀改革の必要性に言及した。政府のスポークスマンである官房長官の立場を離れ、政治家・菅義偉としての考えを披歴した格好だ。

 10月1日にふくおかフィナンシャルグループ(FG)傘下の親和銀行、十八銀行が合併して「十八親和銀行」が発足したことで、地銀と第二地銀は全国で計101行となった。ただ、菅氏の発言は数を問題視しているだけに、地銀関係者は「(さらなる)合併を思わせる言葉だ」と戸惑いを隠せない。

 地方で人口が減り続け、超低金利の長期化で収益も上げにくくなる中、「オーバーバンキング(銀行過剰)」は問題となってきた。取引量を追求して時には県境を越えて金利競争を繰り広げてきたことで、逆に収益力をむしばむ悪循環となっていたためだ。

 金融庁の有識者会議が2018年に公表した報告書では、東京都を除き、2行での競争が可能な地域は10府県にとどまり、1行なら存続できる地域は13道府県、1行でも不採算となる地域は23県と試算する衝撃的な内容が明るみに出た。

 この試算は、ふくおかFGと十八銀行の経営統合をめぐり、公正取引委員会が長崎県内の融資シェアの高まりを懸念して審査が長期化した際の説得材料とされた。菅氏は当時公取委も所管しており、金融庁の主張を受け入れ、両行が一部融資債権を譲渡することを条件に統合承認を進めた張本人だ。

 政府はこの経緯を踏まえ、同一地域内の融資シェアが高まる場合でも経営統合を認める独占禁止法の特例法制定を推進。11月に施行される予定だ。菅氏も「こうしたこと(特例法)も活用しながら経営強化を進めていただきたい」と語った。

 ◇統合限界論も

 「進言しているのは誰か」―。地銀界では、菅氏の再編に関する積極的な発言の裏にいる人物に関心が集まる。企業再編論者のデービッド・アトキンソン小西美術工芸社社長、地銀連合構想を掲げる北尾吉孝SBIホールディングス社長、金融庁長官を務めた森信親氏と、臆測が浮かんでは消える。確かなのは、菅氏が地域経済を支える地銀の経営基盤強化のため、再編を進める立場をとっていることだ。

 新政権誕生後、青森銀行、みちのく銀行の青森県内地銀2行の統合観測が報じられた。首相就任前の菅氏から「地銀をよろしく頼みます」との電話を受けたと報じられているSBIの北尾氏が進める地銀連合も拡大の余地がある。福井県の福井銀行と福邦銀行は、既に「グループ化」の検討に入っている。

 地銀の統合についてはこれまで、看板の掛け替えや足元の採算性による取引企業の選別につながるのではないかと懸念する声が強かった。統合後に反りが合わず経費削減も進まない「失敗作」もあって動きが鈍かったが、菅氏就任で一転して加速は必至の情勢に。「うちもターゲットなんだろう」。東日本の地銀関係者は苦しい表情で漏らした。

 ただ、9月半ばごろから統合効果に疑問を呈する声も強くなった。日銀が「預金量8兆円程度にならないと経費削減効果は限られる」と分析していることが伝わったためだ。青森銀とみちのく銀の場合、総預金は5兆円に満たない。総預金が1兆円を割る第二地銀もあり、「6、7行以上で統合しなくてはならない」(関係者)計算になる。コスト削減だけを狙って新たな枠組みを作るのは、規模が小さい地銀ほど非現実的だ。

 一方、コンコルディア・フィナンシャルグループ(FG)やふくおかFGなど既に大きな預金規模を誇る地銀グループへの参加は有効な方策とみられる。単独存続を目指す地銀には、業務提携を中心とした銀行同士のアライアンス(広域連合)のほか、SBIが提供する予定の基幹システムや資金運用の共同化スキームも選択肢となる。

 いずれにしても「コスト削減はいつか限界に達する」。その間も人口減少は続くため、求められるのは「地域経済とともにトップライン(業務粗利益)を伸ばす具体的な絵を描くこと」(金融庁関係者)であることに変わりはない。地域に寄り添い続けてきた地銀経営陣の事業構想力が問われている。(経済部・石田恵吾)(了)

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