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ばら積み船市況、年末に向け上昇ペース維持=海事センター・後藤氏

2020年10月28日 11時26分

EPA時事
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 鉄鉱石や穀物などを運ぶ「ばら積み船」市況が、新型コロナウイルスまん延前の水準を回復した後も堅調だ。経済活動を本格化させた中国で、鉄鉱石などの原料輸入が著しく増え、市況をけん引している。一方、欧米では感染の再拡大に伴い、経済への影響が懸念される。今後の海上貿易の見通しについて、日本海事センターの後藤洋政企画研究部研究員に聞いた。

 ―世界経済はコロナ禍で大幅なマイナス成長になる見込みだ。

 ばら積み船の荷動きは、経済のバロメーターの一つともいわれる。リーマン・ショック以降、増加傾向にあったが、今年に入りブレーキがかかり、上半期にボトムを付けた。しかし、そこから中国が景気刺激策を打ち、粗鋼生産拡大による鉄鉱石需要を6月以降増加させるなどしたため、海上輸送需要が復調に転じた。

 ばら積み船市況の代表的な指標であるバルチック海運指数(BDI、1985年=1000)は、現在1300~1400台で推移している。5月には400を割り込む水準まで落ち込んだが、その後大きく戻した。昨年9月に付けた9年ぶりの高値2500台に比べると低いが、直近10年間を見ると、現行は比較的高い水準にある。

 ―市況上昇の中心は中国か。

 中国は、今年7~9月期の実質GDP(国内総生産)が前年同期比約5%増加した。こうしたV字回復を見ても、世界の荷動きを独りけん引しているイメージがある。世界の海上輸送では、ばら積み船で運搬する鉄鉱石、石炭、穀物の3品目が輸送量の計3割弱を占める。これら原料への中国の需要は旺盛で、市況に与えるインパクトは大きい。

 ―中国の粗鋼生産量は過去最高レベルにあるようだ。

 鋼材の原料となる鉄鉱石は、中国の輸入量が世界全体の7割に上る。いまインフラや住宅への投資が活発化する中、オーストラリアやブラジルから運ぶ輸送需要が急増し、ばら積み船の用船料を押し上げている。

 また、世界の輸入量の5割程度を占める石炭も、火力発電用途用などで輸入が増えている。必要な電力需要を賄うための動きだ。穀物は、コロナ禍とは関係なく、大豆の輸入は好調で、飼料用穀物と合わせて輸入需要は底堅い。

 ―貿易面で深く共存する中豪両国で、コロナの発生源をめぐり緊張関係が高まっている。

 10月半ばにBDIが下げ足を速めた場面があったが、中国が豪州産石炭の輸入管理強化に乗り出すとの報道を受けたものだった。

 コモディティーに関しては、中国は豪州からの輸入分を別の輸入先に振り替えられるか、国内で代替できるかなどを探っているのではないか。鉄鉱石ならブラジル、一般炭ならインドネシアだ。調達先が確保され、輸入量が変化しないのであれば、船の使い道はあるため、マーケットは問題ないと判断するだろう。

 ◇バイデン氏勝利なら海上輸送にマイナス要因にはならない

 ―感染が再拡大する欧州や米国で経済停滞の恐れが出てきた。

 下半期に入っても中国の輸入が伸びているとはいえ、残りの北米、欧州、東アジアの経済が回復に向かわないと、ばら積み船市況が腰折れする懸念も考えられる。注視する必要がある。

 ―ばら積み船とともに不定期船貨物の柱である石油タンカー市況の現状は。

 今年4月にニューヨーク原油(WTI)相場で史上初のマイナス価格が付いた際、原油を貯蔵する施設としての需要が発生し、市況は高騰したが、一時的に終わった。その後輸送需要は低迷している。世界的な感染拡大とロックダウン(都市封鎖)により、航空燃料や自動車のガソリンの消費が大幅に減少したことが響いている。

 だが、今年だけの動きでもない。タンカー運賃指標のワールドスケール(WS)を見ると、ペルシャ湾~日本向けの運賃は、この10年間総じて低迷しているのが実態だ。

 ―今後の見通しは。

 ばら積み船市況は足元で一服感が出ているが、中国が10~12月期の経済成長率を維持できれば、年末に向け市況の上昇ペースが崩れることはないとみる。20年の海上輸送量は、前年の119億トンに対し、同レベルか、やや割り込む程度で収まるのではないか。

 米大統領選は、バイデン氏が勝てば、自由貿易を重視する立場から、高関税化の動きは後退すると予想され、海上輸送にとってマイナス要因にはならないだろう。(了)

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