〔特派員リポート〕米台、経済対話始動へ=国務次官訪問で「弔問外交」
2020年09月30日 12時14分
クラック米国務次官(経済成長・エネルギー・環境担当)が9月17~19日の日程で台湾を訪問した。クラック氏は、1979年の米台断交以来、訪台した国務省の幹部としては最高位。訪問の表向きの目的は、19日の李登輝元総統の告別式に参加することだったが、一行は18日に蔡英文総統や蘇貞昌行政院長(首相)ら政権幹部と相次いで会談し、「弔問外交」を展開した。
クラック氏は王美花経済部長(経済相)とも会い、米台が設置を合意済みの「新たな経済対話」について意見を交わした。王氏によると、対話の枠組みが固まり、近く始動する見通しだ。
◇サプライチェーンなどで協力
20日に記者会見した王氏は、今回の会合は「非公式対話だ」とした上で、米国務院が打ち出した安全保障にリスクをもたらさない次世代通信規格(5G)網「5Gクリーンネットワーク」構想や、サプライチェーン(部品供給網)再構築など七つの領域について米台が協力していくことを確認したと説明した。
5G構想は、アプリやクラウドなど幅広い分野で中国製品の利用を制限していくことが目的。中国企業傘下の短編動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」や、対話アプリ「微信(ウィーチャット)」に関するトランプ政権の取引禁止方針は、この構想の一環だ。
サプライチェーン再構築も、対中対抗の一環と位置付けられる。米中貿易摩擦の激化を受け、中国から生産拠点を地元に移した台湾企業は昨年来、累計で200社に達した。米台は今後、この動きを継続させるための取り組みを一緒に検討していくものと見込まれる。
◇中国は反発
今回の弔問外交からは、トランプ政権が進める経済分野の中国孤立化戦略をめぐり、米台の一段の接近ぶりが鮮明になった。
蔡総統が18日、官邸にクラック氏ら一行を招いて主催した夕食会では、ファウンドリー(半導体受託製造)世界最大手TSMC(台湾積体電路製造)創設者で、前会長の張忠謀氏が唯一の民間人として参加した。同社は今年5月、米アリゾナ州に約120億米ドル(約1兆2600億円)を投じ、最先端の半導体製造工場を新設する方針を発表済み。米側は台湾の主力産業である半導体分野での連携強化に強い期待を寄せた。
一方の中国は、相次ぐ米高官の訪台に反発。18、19日に台湾海峡で軍事演習を実施し、戦闘機などが連日で台湾海峡上空の中間線を越えた。中間線は中台の事実上の停戦ラインとして機能しており、米台双方へのけん制が目的だ。
米台は、締結を目指す貿易自由化に向けた協定についても意見交換したもようだ。内容は実質的な自由貿易協定(FTA)になるとされており、米台ともに国内の反対勢力を説得する必要がある上、実際に締結に動きだした場合、中国の大反発が予想される。動きが本格化するのは11月の米大統領選後になるとみられるが、中国軍が挑発行為をエスカレートさせる口実にする恐れもあり、実現には多くのハードルが待ち構えている。(台北支局 佐々木宏)
5G
世界の多くの国で商用サービスがスタートした5G。アップルも2020年10月に5Gに対応したスマートフォン「iPhone12」シリーズの販売を …
米大統領選
米大統領選 全米50州と首都ワシントンに配分された計538の「大統領選挙人」の獲得数を競う4年に1度の選挙。過半数(270人)を獲得した候補 …