アクティブ運用会社が飛躍するステージへ=調査体制を強化、フルラインで品ぞろえ-東京海上アセットマネジメントの長澤和哉社長に聞く
2025年08月14日 07時00分

東京海上アセットマネジメントの社長に就任した長澤和哉氏は、時事通信社のインタビューに応じ、今後の事業展開について語った。この中で、「経済の不確実性が高まり、企業の優勝劣敗が広がる中で、アクティブな運用会社が飛躍するステージが整ってきた」と指摘、お客さまそれぞれに応じた資産運用を可能にするため、調査・運用体制を強化し、フルラインでアクティブ型の運用商品を提供していく方針を明らかにした。主なやり取りは以下の通り。
◆投資に科学を取り入れる
-社長就任の抱負は
長澤社長 「就任の抱負」や「当社が目指す姿」は、私の経歴と関連しているので、「私がこれまで何に取り組んできたか」について、まず話したい。
私は、大学院の機械工学の修士を終え、ファンドマネジャーを目指して、94年に明治生命保険(現、明治安田生命保険)に入社した。生命保険会社は、団体年金の受託が可能で、大規模な資金を運用できたためだ。
次に外資系のゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントで、コンピューターと数学を駆使してデータを計量分析するクオンツ運用を担当した。90年代はパソコンが普及し始めた時期で、「投資に科学を活用すること」に取り組んだ。また、主に米国のテクノロジー株式に投資するアクティブファンド「netWIN GSテクノロジー株式ファンド」の初代のプロダクトマネジャーを担当した。
◆インデックス運用、個人投資家の「最初の一歩」
長澤社長 次に、指数算出などを行うグローバルな金融サービス会社MSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)に転職した。「個人にとって、投資の最初の一歩は、インデックス運用が有効だ」と考えたからだ。日本代表やアジア太平洋地域統括責任者を務め、インデックス投資の普及に力を注いだ。
当時、個人の投資と言えば、個別株式の数銘柄に集中投資するスタイルがほとんどだった。ただ、銘柄選定による成功・失敗がある上、個人投資家が大きな相場変動に耐えることは大変で、中長期に投資を継続して株式市場のリスクプレミアムを享受することは難しかった。
そこで重要になるのが、中長期のリスクプレミアムを獲得する投資機会を世界中に幅広く捉えることができる指数、例えば世界の約2600社に分散投資する「MSCI オール・カントリー・ワールド指数(ACWI)」などに連動するインデックスファンドだ。
2024年1月にNISA(少額投資非課税制度)が拡充され、つみたて投資に関心が高まる中で、個人投資家の多額の資金がインデックスファンドに継続的に流入するようになった。インデックスファンドを活用して、個人投資家が30年、40年と投資を継続することによって、運用の果実を手にすることが期待される。
◆アクティブ運用、個々人にベストな選択肢を提供
長澤社長 ただ、インデックスファンドは誰にとっても非常に素晴らしい商品なのだが、画一化された設計なので「お客さまそれぞれの個別のニーズを満たすことはできない」という課題がある。他の点では、好調の外国株のインデックスファンドは購入通貨が円なので円で投資していると思いがちだが、実態的には外国通貨での投資である。
例えば、お客さまによっては、利息や配当金などのインカム収入を必要としているかもしれない。あるいは、最終的に円として使用するので、実態的にも円建ての安定的な運用を求めているかもしれない。
それぞれのお客さまの個別のニーズに応え、ベストな選択肢を提供できるのが、アクティブファンドだ。このように考えて、アクティブ運用に強みを持つ東京海上アセットマネジメントの社長を引き受けた。
◆アクティブ運用会社が飛躍する時代に
長澤社長 私は、「勝ち馬を育てること」、「次の流れを創り出すこと」が大切だと考えている。そうした観点で、「次に個人投資家にとって何が大切なのか」を考え、「その中でも最もイノベーションが起きそうな分野はどこか」を探して、仕事をしてきた。
現在の経済環境は、まさにアクティブな運用会社にとって、飛躍のためのステージが整った状態だ。例えば10年、20年前であれば、グローバルに政治が安定していたので、マクロ経済を分析し、その中で業種や企業の動向を考えればよかった。また、経済はグローバル化という一方向に進んでいたので読みやすかった。こうした時代には、インデックス運用が有利だった。
しかし今は、政治もマクロ経済も不確実性が高まり、通商政策はグローバル化とブロック化がぶつかり合っている。業種や企業は、さまざまな変動に直面することが予想される。こうした時代には、個別に企業を調査し、その成果をポートフォリオに反映できるアクティブ運用が有利になるだろう。
これからは、勝ち組と負け組企業の差が広がることが予想される。投資に当たっては、その企業の3年後、6年後、10年後をしっかり読んでいく必要がある。
◆フルラインのアクティブ運用会社
-東京海上アセットマネジメントが目指す姿は
長澤社長 アクティブ運用が市場平均のパフォーマンスに勝てる理由は、先を読んでいるからだ。東京海上アセットマネジメントは、時代を先取りする、先進的で創造的なプロダクトを取りそろえて、お客さまに提供していく。それによって、さまざまなニーズを持ったお客さまが、それぞれにベストな資産運用をできるようにしていきたい。
また、積極的に人材を採用し、組織の能力を高め、2桁成長を続けることで、国内大手運用会社の上位を目指す。伝統的資産からオルタナティブまで、お客さまに必要となる全ての商品をフルラインでカバーしていく方針だ。
◆「シンプルなメッセージ性」が重要に
-商品ラインナップの考え方は
長澤社長 お客さまに対しては、「シンプルなメッセージ性を持った商品」を提供することが大切だと思う。メッセージが伝わることで初めて、良い商品に投資してもらうことができるからだ。
例えば、内外株式に投資する「東京海上・宇宙関連株式ファンド」は7月に純資産総額が2000億円を突破した。宇宙関連は、非常に大きな技術のかたまりだ。機械工学、電気、電子、情報、生物化学、素材など、多方面に裾野が広がっている。
アクティブ運用の本質は、「未来を読むこと」だ。未来に必要とされる技術・サービス・企業を見つけてきて、投資をする。そういう点で、宇宙関連は、メッセージ性もシンプルで、未来を先読みできるテーマだ。
また、海外株式に投資する「東京海上・世界モノポリー戦略株式ファンド」は、高い参入障壁等により、一定の地域においてモノ・サービスを独占・寡占していると判断される企業に投資するファンドだ。こうした企業は、不確実性が高い世界で、自らの強みを発揮することが期待される。
さらに、1月に設定した「東京海上・上場オルタナティブ・アセット・マネージャーズ戦略ファンド」は、日本を含む世界の取引所に上場されている、オルタナティブ投資を行う運用会社の株式および投資信託証券に投資するファンドだ。
オルタナティブ資産に個人投資家の関心が高まっているが、例えば、解約が長期間、制限されることもあるオルタナティブ資産に直接投資するのは、ハードルが高いだろう。しかし、オルタナティブ運用に強みを持つ上場企業の株式であれば、株式という馴染みのあるアセットクラスから投資ができる。オルタナティブ投資への入り口(ゲート)という思いを込めて、愛称を「オルタナゲート」とした。
「この次に来るテーマは何なのか」-。当社のファンドのラインアップを見ると、それがシンプルに伝わることを、目指している。決して一過性のテーマではなく、3年後、6年後、10年後の世界で必要となることを、お客さまにしっかりお伝えしながら、時代を先取りする創造的なプロダクトを提供していきたいと考えている。
◆グローバルなリサーチ体制を強化
-調査・運用体制の強化は
長澤社長 調査・運用体制は、運用会社の一丁目一番地だ。優れたプロダクトがあってこそ、お客さまのお役に立つことができるので、積極的に強化していく。
一つ目はグローバルなリサーチ体制だ。現在、ニューヨーク、ロンドン、シンガポール、東京の4拠点を展開している。日本株から外国株、債券、オルタナティブ資産まで幅広く自社での運用を強化するために今後3年程度で100人規模の採用を考えている。
二つ目は、海外の運用チームに外部委託することで、海外の運用戦略を積極的に国内公募投信として提供していく。日本のお客さまの手が届かない、海外企業の運用力を、当社が間に入って、日本の投資家に届けていきたい。
三つ目は、オルタナティブ資産だ。インフラ投資や海外不動産、プライベート・エクイティ(未上場株式)についても、しっかり取り組んでいく。
◆基礎知識が重要に、俯瞰的に捉える視点が大切
-投資家へのアフターフォローは
長澤社長 個人投資家は、メッセージがシンプルで、アルファー(超過収益)の源泉として何を取りに行っているか、明確に伝えることが大切だ。的を射た商品を作った上で、分かりやすいメッセージでその内容をしっかり伝え、投資いただいた後は、その運用状況をアップデートしつつ、アフターフォローしていく。
NISAで投資家の裾野が拡大したことで、投資家の属性が大きく変化している。例えば年齢、収入、資産額、家族構成、リスク許容度、投資に対する理解度などさまざまな投資家がいらっしゃるので、多様なニーズに応える工夫が必要になっている。細分化したアプローチが大切で、動画を使ったり、SNSを活用したり、従来からの媒体と合わせてハイブリッドな対応を実施していく。
また、基礎を大事にすることも重要だ。SNS等は、今起きていることについて大量の情報が提供されるが、これと一緒にマクロ経済の基礎知識を持っていた方がいい。全体を俯瞰して、体系的に把握することが、正確な理解のために不可欠だからだ。時事ニュースと経済理論を両輪で知ることができるように工夫していきたい。