ウォール・ストリート・ジャーナル
バロンズ・ダイジェスト

マーケットニュース

債券への分散投資で、ポートフォリオの頑強性を高める=株式のボラティリティ上昇で-PIMCOのムラタ氏

2025年11月17日 07時30分

アルフレッド・ムラタ氏

 債券運用大手のPIMCO(米国カリフォルニア州)のマネージング・ディレクターで、アクティブの債券ファンドで世界最大の「PIMCOインカム戦略ファンド」の運用を共同で主導するポートフォリオマネージャーのアルフレッド・ムラタ氏が来日し、都内でメディア向け説明会を開いた。

 この中で、マクロ経済について「関税政策の影響によって今後1年間、ボラティリティはかなり高くなっていくだろう」と分析。株式に債券を加えた分散投資を行うことで、「ポートフォリオの頑強性を高め、リターンを安定させる効果が期待される」と指摘した。主なポイントは、以下の通り。

◆せめぎ合う力、高まるボラティリティ

-マクロ経済の注目材料は

ムラタ氏 ①せめぎ合う力 ②関税リスクの顕在化 ③テクノロジー投資の継続-の3点に注目している。

 一つ目の「せめぎ合う力」だが、貿易摩擦という難しい状況の中で、関税政策の影響によって今後1年間、ボラティリティはかなり高くなっていくだろう。また、巨額のAI投資が行われているが、個別企業の中には課題を抱えるところも出てくるだろう。

 二つ目の「関税」については、まだ政策が発表されているだけで、実際の影響は感じられていない。これかれら1年間、その影響を感じることになるだろう。

 三つ目の「テクノロジー投資」だが、短期的にはプラスの成長要因になるが、将来的にはボラティリティがより激しくなると考えている。

◆景気刺激策で、2026年後半から経済成長が促進

-今後の経済見通しは

ムラタ氏 グローバルな工業生産や世界の米国向け輸出量は、関税引き上げを控えた前倒し需要により、高い水準にあった。今後は、その反動で一時的に経済活動は鈍化していくものと見ている。

 ただ、AIへの投資が米国経済の成長を促進し、経済を下支えするだろう。また、米国と各国との交渉により相互関税の内容が見直され、米国で大型減税法案が可決された。景気刺激策により、2026年後半から経済成長が促進されると予想している。

◆関税とインフレ、AI投資の不確実性

-経済見通しのリスク要因は

ムラタ氏 最大のリスクは、関税の影響だ。まだ、その影響が現れていないが、今後、インフレを押し上げる要因になる可能性がある。

 二つ目は、AI投資が集中していることだ。「いずれ利益を生み出す」と考えてAIに投資しているが、こうした見方が変化した場合に、AI投資が大幅に減少する可能性がある。AI投資の不確実性が、もう一つのリスク要因だ。

 もう一つ懸念していることは、経済全体への影響は大きくないかもしれないが、個別企業によってはAIによって問題を抱える会社が出てくるかもしれないことだ。AIで大きな利益を上げる企業があれば、そうならない企業もあるだろう。特に社債に投資する場合は、慎重を期している。

 AIと景気全般についてだが、AIにより経済全体のパフォーマンスは良いかもしれないが、雇用市場がそれほど良くない可能性がある。アマゾンは決算が好調だったが、大規模なレイオフを発表した。AIのおかげで景気は良くても、個別企業レベル、個人レベルでは良くないことを懸念している。

◆分散投資でポートフォリオの頑強性を高める

-投資家へのアドバイスは

(出所)PIMCO(出所)PIMCO(クリックで表示)

ムラタ氏 代表的な米国株式指数と債券指数を使って、市場環境が厳しかった時のパフォーマンスを棒グラフにした。具体的には、「2023年3月のシリコンバレー銀行の経営破たん」、「2024年8月の米景気懸念・日銀追加利上げ」、「2025年3月の貿易戦争・成長懸念」の時だ。

 過去のデータからは、株式がマイナスのリターンになった時に、債券はプラスのリターンを上げており、債券投資を加えることでダウンサイド・プロテクションが得られたことが分かる。株式だけでなく、債券を保有することで、ポートフォリオの頑強性を高め、リターンを安定させる効果が期待される。

 また、代表的な米国株式指数と債券指数で相関関係を見ると、最近では相関の数値がゼロ近辺でマイナスになることが多く、株式と債券が「無相関・逆相関」になる傾向にある。25年間の平均でも、債券は株式に対してダウンサイド・プロテクションを提供している。

 

 

ウォール・ストリート・ジャーナル
オペレーションF[フォース]