米国株、年末に向け緩やかな上昇余地=予防的利下げや企業収益が後押し-フランクリン・テンプルトン・ジャパンの和泉氏
2025年09月29日 08時00分

米大手運用会社の日本法人フランクリン・テンプルトン・ジャパンは「2025年後半の米国株の現状と見通し」をまとめた。
和泉祐一シニア・リサーチ・アナリストは、米国経済について「平均の実効関税率が20%以下の水準に落ち着きつつあり、景気後退への懸念も低下している」と分析。トランプ関税ショックを乗り越えて史上最高値を更新している米国株については、S&P500で2025年末に6400~6800ポイントと予想した。
その要因について①米連邦準備制度理事会(FRB)が景気後退を回避しながらの「予防的利下げ」を行うことが見込まれる ②AIブームや金融取引の活性化により企業収益が堅調を維持する可能性が高い-と指摘。「年末に向けて米国株には、緩やかな上昇余地が残されているのではないか」と述べた。
ただ、米国経済のリスクについて「財政懸念により長期金利が高止まりすると金融緩和の効果が限定的になるおそれがある。また、個人消費は全体としては堅調だが、高所得層と低所得層の二極化が進んでいる」と指摘した。
その上で「米国株が史上最高値を更新する中でも米ドルへの信認が低下しており、国際分散投資の重要性が高まっている」として、「金利差や内需の成長性の高さから豪州への分散投資に見直しの余地があるのではないか」と述べた。主なポイントは以下の通り。
◆不安解消が、株価上昇の原動力に
2025年前半の米国株式市場は、不安要因を解消することが、上昇の原動力となってきた。例えば4月にはトランプ関税ショックや中東リスクの高まりがあった。
今後の注目点は、トランプ関税のコストを誰が負担するかだ。①米国企業(マージン圧縮で吸収) ②労働者(雇用削減) ③消費者(価格転嫁) ④連邦政府(新たな景気支援策による財政負担増)-が想定される。これから、企業業績、雇用状況、インフレ、政府の対策などを注視していく必要がある。
◆「情報技術」「コミュニケーション」「金融」が利益成長に貢献
2025年前半の米国株式のパフォーマンスを要因分析すると、「利益予想の改善」と「バリュエーションの上昇」が、株価を後押ししてきた。ただ、米国株の12カ月先の予想PER(株価収益率)は22.7倍(2016年以前の平均は18.7台)に上昇しており、割高感が意識される水準になっている。
セクター別に分析すると、「情報技術」、「コミュニケーション・サービス」、「金融」が米国企業の利益成長を押し上げてきた。こうした中、マグニフィセント・セブンの利益成長は緩やかに鈍化し始めており、それ以外の銘柄の利益が拡大している。
米国株においても、大型のハイテク株だけでなく、それ以外の銘柄に対する分散投資の余地が広がっている。
◆AIインフラ投資ブームが、米国経済の成長をけん引
設備投資の見通しは、ハイテク企業を中心に上方修正される傾向にあり、AIインフラ投資ブームが活性化している。データセンターなど、AI関連インフラへの投資が、米国の民間設備投資を押し上げている。
大手ハイテク4社(メタ・プラットフォームズ、マイクロソフト、アルファベット、アマゾン・ドット・コム)の設備投資額は、2025年に3000億ドルを超え、2026年度には4000億ドル台へと、拡大する見通しだ。
こうした設備投資が、米国経済の成長ドライバーになっている。ただ、長期的に見ると、これだけ大規模な設備投資が続いているのだから「いかに収益を回収するか」が、課題になるだろう。
データセンター関連の設備投資の活性化により、半導体やクラウド・プロバイダーだけでなく、幅広い業界に恩恵をもたらすだろう。電力であったり、天然ガスであったり、エネルギー供給を支えるインフラセクターに見直しの余地があると、考えている。
◆トランプ関税による価格転嫁は限定的
トランプ関税によるインフレへの影響は限定的だ。消費者物価指数(CPI)と生産者物価指数(PPI)は、いずれも落ち着いた動きになっている。一方で、雇用者数の増加ペースは鈍化傾向にあり、求人数の減少により、雇用環境が一段と悪化する可能性がある。
9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、FRBは利下げを再開し、政策金利の誘導目標を0.25%引き下げて年4.00~4.25%とした。景気自体は堅調さを維持している中で、景気後退を回避しながらの「予防的利下げ」を実施した。
今後についてFOMCは、年内に2回の利下げを見込んでいる。一方、26年の金利見通しをめぐっては、FOMC内で見方が分かれている。ただ、来年5月にはパウエル議長の交代が予定されており、新議長の下で新たなコンセンサスが醸成されていくものと見ている。
今後の金利見通しだが、FOMC直後の金利先物市場の予想を見ると、2026年末の金利水準は3%近辺まで低下するという予想が、市場の見方になっている。
過去を振り返ると、1995-96年と1998年に、景気後退を回避するための「予防的利下げ」が実施された。どちらの際にも、金融株や消費関連株を中心に上昇する傾向が見られ、株価に追い風になった。
ただ、1998年8月のロシア危機後に実施された「予防的利下げ」については、99年からのITバブルの一因となったとする分析もある。ここから示唆されることは、予防的利下げは「米国株の追い風になりやすいものの、過熱を助長するリスクもある」という点に注意しておくことが大切だろう。
◆M&A件数が増加、金融の事業環境が改善
ハイテク以外では金融セクターに注目している。2025年前半でも、銀行株のパフォーマンスは、S&P500を上回った。
その要因としては、(A)25年の米国のM&A取引金額が21年以来の高水準に回復するなど事業環境が改善してきた (B)トランプ政権の金融規制緩和への期待 (C)大手銀行がストレステスト(健全性審査)を通過したことで、自己資本に余力が生まれ、増配や自社株買いなどの株主還元策が活性化することへの期待-を挙げることができるだろう
さらにM&Aの活性化は、プライベートエクィティなどのオルタナティブ運用の面でも投資機会が広がる可能性が高い。トランプ大統領は「確定拠出年金(401k)へオルタナティブ投資の普及を円滑に進めるための大統領令」に署名しており、米国のオルタナティブ運用業界に新たな成長機会が生まれると期待されている。
◆「政府債務問題」や「所得格差の拡大」がリスク要因
米国経済のリスク要因については、家計や企業のバランスシートが健全性を維持する中で、「連邦政府の債務残高の増加」が懸念材料として残っている。財政懸念を背景に米国30年国債利回りが上昇すれば、これをベースとする住宅ローン金利の高止まり傾向が続き、金融緩和の効果が限定的なものにとどまる可能性があるためだ。
米国の主要都市の住宅価格指数の推移を見ると、一部の都市で下落に転じており、中古住宅販売件数も低迷が続いている。
もう1点は、格差の拡大だ。米国の個人消費は堅調だが、その中身を見ると、高所得層と低所得層で二極化が進み、消費者センチメントに違いが出ている。高所得層は、株高による資産効果の恩恵を受けているが、株式市場が不安定化すると、経済への悪影響が懸念される。
米国では、株式市場の時価総額が、名目GDPの2倍強に拡大している。このことからも、米国以外の地域へ分散投資する意義が感じられると思う。また、バリュエーションの上昇により、12カ月先の米国株の益利回り(1株当たり予想利益÷株価×100)は、米10年国債利回りとほぼ同等水準に低下してきている。信用力の高い債券への分散投資を検討する余地が大きいのではないか。
◆国際分散投資の先として、豪州に注目
為替については、米株高が進む中でもドル安が進んでおり、米国に対する信認の低下が懸念されている。米ドル安の中で見直される通貨として、当社は豪ドルに注目している。
豪州でも金融緩和が進められているが、来年には豪州と米国の政策金利の格差が逆転するだろう。豪ドルは、金利差の点からも投資妙味がある通貨と言えるだろう。また、経済成長の面でも、欧州が関税等の影響で鈍化する中、内需中心に堅調に伸びている豪州が注目される。