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一層の社会浸透へ金融教育推進=フィンテック協会・沖田代表理事

2024年11月15日 12時58分

フィンテック協会代表理事会長の沖田貴史氏(ナッジ代表取締役)

 フィンテック協会(東京)は10月、設立のきっかけとなったスタートアップや外資系企業による初会合の開催から10周年を迎えた。10月末の社員総会・臨時理事会で第10期代表理事会長に再任された沖田貴史氏(ナッジ代表取締役)は、時事通信社のインタビューに応じ、「フィンテックの一層の社会浸透に向け、金融教育に力を入れていきたい」と抱負を語った。主なやりとりは以下の通り。

 ―過去10年の活動を振り返って。

 正式に法人化されたのは2015年だが、設立の契機となった初ミーティングが都内で開かれたのは14年10月。当時、海外ではスマホの普及に伴う金融の技術革新が始まりつつあったのに対し、日本はキャッシュレス決済の普及が遅れていた。

 そこで、スタートアップや外資系の企業を中心に話し合いの場を設け、国内大手企業も参加する形で、フィンテックの健全な普及を目指したのが協会の始まりだ。

 10年を経て、フィンテックという言葉は良くも悪くも「普通の言葉」になった。キャッシュレス決済の普及率は15%から40%近くに上昇した。ほぼキャッシュレス化されたスウェーデンや韓国に比べ、日本は現金利用比率が高いものの、フィンテックの一般化という、当初の目標は達成されたと思っている。

 ―決済分野以外は。

 例えば、「インシュアテック」と呼ばれる保険分野や、融資利率の決定に個人の信用力を反映する「スコアリング」といった領域での技術の浸透は、中国をはじめとする諸外国に比べて遅れており、キャッチアップが期待される。

 ただ、他国のまねをしている限り、前に出ることは不可能。他国を追い越すにはブロックチェーン(分散型台帳)技術をベースとする次世代インターネット「Web3」のような新規分野へ挑戦していくことが求められると考えている。

 現在、ブロックチェーン技術が定着しているのは暗号資産(仮想通貨)の取引システム程度だが、Web3業界はインターネットの黎明(れいめい)期に雰囲気がよく似ている。実社会に幅広く根付くよう、今後の進化に期待している。

 ―フィンテックの進化の方向性について。

 インターネットがたどった普及の道筋と同様に、フィンテックも人々の生活の一部として溶け込んでいくだろう。金融取引が意識的、能動的に取り組むものではなく、あらゆるところに埋め込まれ、提供される「エンベデッドファイナンス」の時代がやってくる。

 例えば、短時間のカーシェアサービスに付帯された低額保険や、買い物でたまったポイントが資産運用に充てられるような姿だ。

 特に、資産運用の分野は大事。現在、日本人の多くは資産運用に消極的で、資産を貯金として寝かせたままだ。それが機会損失で、知らずに不利益を被っていることに気付いていない。話題になった「老後資金の2000万円問題」もそのような背景がある。

 フィンテックの浸透によって、人々が意識せず、自然体で資産運用に取り組めるようになれば、資産の形成に有益な結果をもたらすだろう。

 ―今後の活動は。

 フィンテックという言葉や概念を事業者に伝える、最初のステージは完了した。今後は、一般利用者への金融教育に取り組んでいく。学校や地方自治体、地方の金融機関と力を合わせ、進めていきたい。

 例えば、リボ払い。上手に利用すれば便利なサービスだが、周知が不十分で、悪評が先行している。メリットとリスクをきちんと理解し、使ってもらう必要がある。

 新種の消費者信用関連の金融サービスには、確固たるルールがないままさまざまな企業が参入し、利用者の返済能力を超える与信を行ったり、若年層に過激なプロモーションがなされたりしているケースもある。何らかの対策が必要で、協会としても自主規制などを含め、健全化に貢献したい。

 ―普及に向け、当局に期待したいことは。

 例えば、デジタルマネーでの給与払いの問題がある。当局には制度を整えてもらったが、まだ参入しづらく、チューニングが必要だろう。

 カギとなるのは資産保全制度だ。資金移動業者も全銀ネットに参加して送金をすることが可能になったが、サービス利用者から預かった資金の全額保全が義務付けられているのに加え、全銀ネットにも資金を積む必要があり、負担が大きい。

 少額決済が中心の資金移動業者には、リスクの大小に応じた実用的な資産保全制度が望ましいと思う。(了)

 

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