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〔深読み米国株〕◎S&P500、年初からの平均値=迫るQTの悪影響発現

2023年11月02日 19時50分

EPA=時事EPA=時事

 1日のS&P500指数は1.0%高の4237。1月からの210営業日の平均値4228とほぼ同じだ。体感的には高くも安くもなく、投資家の主観でどうにでも解釈できる水準と言える。

 株式に限らず、誰の目にも危うい過熱相場も理屈抜きで買える割安状態もそう多くはない。大方の営業日は高安どちらとも付かないところを、投資家は四方から情報を集め、意思決定を下しているのが実情だろう。

 日々の株式市場にしても、本当はなぜ動いたのか判然としないケースは少なくない。1日の株高は連邦公開市場委員会(FOMC)が政策金利の据え置きを決め、FOMC後の記者会見でパウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長が12月FOMCでの利上げ見送りを否定しなかったことが材料とされたが、どこか釈然としない市場参加者が多かったのではないだろうか。

 というのも、政策金利の据え置きは市場予想通り。サプライズは全くなかった。

 パウエル議長は金融引き締めの効果が出ているとの認識を披露し、利上げ停止観測を補強する形になった。ただ、金利水準は「十分に景気抑制的か、まだ確信できない」と追加利上げの可能性に言及。株式市場が待望する利下げ開始は「全く考えていない」と明言している。株価が上がっても下がってもパウエル議長発言に根拠を置いた後講釈が可能だった。

 市場の関心は12月12~13日に開かれる年内最後のFOMCに移っている。パウエル氏は「政策決定はデータ次第」とする姿勢を変えておらず、12月FOMCまで重要統計が発表されるたびに、市場参加者の解釈次第でパウエル氏が「タカ」にも「ハト」にも見える状態が続くのだろう。

 市場の相場観が金融政策をめぐって短期的に揺れ動くのとは別に、気になる材料がある。FRBによる量的引き締め(QT)である。

 パウエル議長は今回のFOMCでQTの停止について「全く検討されていない」と述べた。FOMCごとに大幅利上げしたり様子をみたりと、FRBは緩急を付けて政策金利を調整しているが、市中に出ていく資金量は粛々と減らしている。みずほ証券の小林俊介チーフエコノミストは「QTは機械的に進んでいるためか、市場の関心は政策金利ばかりに集中している」と指摘し、マーケットの深層に潜む流動性枯渇リスクに警鐘を鳴らす。

 FRBがバランスシート縮小を打ち出したのが昨年5月。月間950億ドルのペースでFRBは保有有価証券の残高を減らしている。これまで流動性問題が半ばスルーされてきたのは、FRBが国債を担保に民間金融機関から資金を借りるリバースレポの返済が緩衝材となって、FRBから民間金融機関に資金が流入していたためだ。

 しかし、民間への資金返済につながるリバースレポ残高は4月末に2.3兆ドルあったが、わずか半年で1.1兆ドルに激減した。QTの悪影響を和らげてきたリバースレポ残高が底を尽きれば流動性の問題が急浮上し、「資産価値が急落する懸念がある」(小林氏)という。流動性不足のリスクは投資家の解釈次第でどうにかなる問題ではないようだ。(編集委員・伊藤幸二)(了)

 

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