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〔深読み米国株〕ムーディーズの銀行格下げが告げる「地合い」の変化

2023年08月10日 19時00分

EPA=時事EPA=時事

 米国市場では8月8、9日の両日、格付け大手ムーディーズ・インベスターズ・サービス(MDY)による銀行の格下げが株式の売り材料になった。MDYが格付け見直しの理由として挙げるのは、銀行の収益力低迷や商業用不動産向け融資への傾斜など新鮮味に欠けることばかりだ。市場関係者は「MDYの格下げで、投資家がこれまで目をそらしていた悪材料を意識してきたことが浮かび上がった」(外資系運用会社)と指摘する。

 MDYは第2四半期(4~6月)決算を踏まえ、「今後、内部資本を生み出す力が抑制される」などとして8月7日付で中小10銀行の格付けを1段階引き下げた。バンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BK)やステート・ストリート(STT)など大手行は引き下げ方向で格付けを見直す。

 米国株投資情報を日本語で伝える「バロンズ・ダイジェスト」は8月9日、「不可解なムーディーズの銀行格下げ」と題する記事を掲載。ムーディーズが指摘する信用の引き締めや貸し倒れ増加リスクについて、「軽視すべきではない」と注意喚起した。一方、これら銀行の業績悪化要因がいずれも既知の材料であることを理由として、MDYの格下げが「投資家に買い場を提供しているのかもしれない」と、拾い場到来の可能性があるとの見方を示した。

 SMBC日興証券の村木正雄グローバル金融ストラテジストは今から約1カ月前の7月7日付「グローバル金融ストラテジー」で、個人消費を支える過剰貯蓄が尽きつつある点を銀行トップが軒並み指摘していることを紹介。市場の楽観的な雰囲気と銀行経営者による景況感の違いを際立たせ、リスクの所在を明らかにしている。実際に8月9日には、クレジット・カード残高が4~6月期に過去最高を更新して史上初の1兆ドル台に乗せたことが、GDPの7割を占める個人消費の今後の減速要因と受け止められ、株式の弱材料となった。

 市場には常に強弱両方の材料があり、材料をどう消化するかは市場内外の環境次第で変わる。相場用語で「地合い」と呼ばれるものだ。たとえば市場コンセンサス通りの平凡な決算が発表されれば、地合いが良ければ投資家は買いの口実を探し、地合いが悪ければ好材料が出尽くしたとして利益確定売りを急ぐものだ。

 今回、バロンズ・ダイジェスト記事が指摘するように、既知の材料を並べた銀行格下げに株式市場が売りで応じたのは地合いの悪さが根底にあるためだろう。「好材料は買い、悪材料は売り」は当然として、目先は「中立材料も売り」と考えながら押し目買いのタイミングを計る局面になりそうだ。(編集委員・伊藤幸二)(了)

 

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