〔深読み米国株〕S&P500、5000突破への道筋=格下げでも先高観測衰えず
2023年08月04日 18時30分
米国株の先高観測が根強く、S&P500指数は節目の5000突破が意識されている。一方、格付け大手フィッチ・レーティングスによる米国債の格下げで、8月2日の東京市場を皮切りに世界的に株価下落が連鎖したばかり。市場の強気ムードに水を差した直近の株安の真因は単なる利益確定売りだった可能性があり、S&P500の上昇トレンドへの復帰は意外に早い可能性がある。
フィッチが米長期債を上から2番目の「ダブルAプラス」に引き下げたと発表したのが日本時間2日朝。同日の日経平均株価は2.30%安と下落したが、S&P500は1.3%台後半の下落にとどまった。格下げ発表後の時間外取引ではS&P500先物は通常取引の現物指数比で小高く、米国債利回りはやや低下(価格はやや上昇)していた。
米国債格下げで米国金融市場の信認が揺らげば株式も債券も売られるはずだ。しかし、日経平均の大幅安を横目に時間外取引の初期反応は株先物買い・債券買いがわずかに優勢だった。
今からほぼ12年前の2011年8月5日、S&Pが米国債を1941年の格付け開始から初めて格下げした。その後1カ月でS&P500は7%近い大幅安となり、市場参加者に「格下げショック」として記憶されている。
ただ、今回は格下げショックの再現を避けられそうだ。SMBC日興証券の牧野潤一チーフエコノミストは4日付のリポートで、「今回の格下げによる市場への影響は小規模にとどまるのではないかと考えている」とした。牧野氏は、12年前の格下げが欧州債務危機の渦中で発表されたが、今回は外国のマイナス要因がないことを指摘。高金利下でも好調な景気、連邦準備制度理事会(FRB)による利下げや政府による財政収支の改善余地も挙げ、「深刻な市場調整は起きないと思われる」と結論付けている。
S&P500は直近では50日移動平均線比でプラス6%前後が過熱ラインとなっている。直近では6月15日に6.02%まで50日線との乖離(かいり)を広げた後に100ポイント幅の調整を迎えている。格下げ前の7月19日にも5.85%まで乖離率が拡大しており、相場は過熱状態にあった。大方の短中期投資家のポジションに利が乗っているタイミングで出てきた米国債格下げのニュースが利益確定売りの号砲とみなされただけなのではないか。
外資系証券の営業担当者は「短期投資家が株式を売っても魅力的な資金の置き場はなく、再び米国株投資に充てる」と予想する。8月3日のS&P500は4501.89と、終値ベースの直近高値4588.96(7月31日)から約87ポイント安の水準にある。6月相場と同じ調整過程をたどるとすれば、そろそろ反騰開始のタイミングだろう。
米国株情報の日本語メディア「バロンズ・ダイジェスト」は8月2日に「シティ、S&P500の目標値を5000に上方修正」と題する記事を配信。シティ・グループによるS&P500の目標値引き上げに対して、「さらなる上振れを見据えている」とする「バロンズ・ダイジェスト」の見解を付け加えた。
同記事によれば、シティ・グループのストラテジスト、スコット・クロナート氏は「1株利益が225ドル、PER20倍強に上昇し、S&P500は4600」「1株益もPERもさらに上昇し、S&P500は5800ドル」「連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを続けてS&P500は3600」の3つのシナリオを想定。それぞれの実現確率を50%、40%、10%とみて、加重平均した5000を上値目標としている。
8月3日のS&Pはほぼ第1シナリオの目標値に近い。投資家にとって問題となるのは、第2シナリオの実現性だろう。S&P500ベースのアナリスト予想による1株益は218ドル近辺。PERは20倍付近にとどまっている。 今後はインフレ沈静化によるコスト低下が1株益を押し上げそうだ。深刻な景気後退に見舞われれば話は変わってくるが、「バロンズ・ダイジェスト」は4日に「バンカメ、リセッション予想を撤退」とする記事で、バンク・オブ・アメリカ(BAC)が大手銀行で初めてリセッション(景気後退)予想を撤回したことを取り上げ、他行も続く可能性があるとの考察を展開している。少なくとも1株益増加に対する市場の期待は高まる方向にあるのだろう。
PERは20倍台前半。長期金利の小幅低下などPERの増幅要因とされる市場内のちょっとした変化があれば、20倍強は変動の範囲内だろう。とすれば、シティのクロナート氏による最も強気なS&P500の5800という予想は、同氏の見積もる40%より高い確率で実現するかも知れない。(編集委員・伊藤幸二)(了)