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国内経済は緩やかに拡大=元・三井住友DSAMの「景気探検家」・宅森氏

2023年05月12日 11時01分

 エコノミストとして約40年にわたって国内外の景気分析してきた宅森昭吉氏が今年3月、三井住友DSアセットマネジメント(東京)を退職した。経済指標などを解析、予測する一方、プロ野球チームの勝敗やアイドルグループのCDの販売枚数など「身近なデータ」から景気を読み解いてきた宅森氏が、新たに「景気探検家」として活動を始めてから1カ月。今後の景気と活動について聞いた。

 ―海外経済の動向が市場関係者の注目を集めている

 米経済は、インフレ懸念や金融機関の信用不安が広がっているが、堅調な労働市場に支えられ、失速はしないだろう。中国経済は昨年末に「ゼロコロナ」政策を撤廃して以降、持ち直している。海外の経済成長率は低空飛行だが、マイナス転落の公算は小さいと考える。

 ―物価動向は。

 昨年のインフレ高進のきっかけは、ウクライナ情勢の悪化を背景とした原油価格の上昇だ。原油高が輸送や製造などのコスト増に波及した。ただ、今年に入って原油価格は、景気減速懸念から需要が減少しており、上昇が一服している。原油の入着価格が4月で、2年ぶりに前年同月比下落に転じたとみられ、10月以降に電気料金は引き下げられる兆しが見えてきた。製造コストの減少により、インフレは鈍化していくだろう。

 ―国内経済は。

 インフレの鈍化や企業の堅調な設備投資計画、外需の底堅さを受けた生産の持ち直しで、緩やかに拡大していくだろう。ただ、ウクライナ紛争や台湾情勢といった地政学リスクは不透明要因で、今後も注視する必要がある。

 ―日銀は4月に植田和男氏が総裁に就任し、新体制がスタートした。

 植田総裁は、黒田前総裁が進めてきた大規模金融緩和を継続する方針を強調し、市場では安心感が広がっている。当面、サプライズ的な政策修正を行う可能性は低く、日銀の金融政策が市場に与える影響は限定的だろう。

 ―これまでを振り返って。

 2000年に始まった「景気ウオッチャー調査」の開発に携わったことが印象に残っている。不況下の1998年に、官庁エコノミストや学者らに交じって経済企画庁の動向把握早期化委員会のメンバーに入った。景気の変化をいち早くとらえる方法として、当時から行っていた「身近なデータ」を使った景気分析が注目されたのだろう。

 景気ウオッチャー調査の開発では、景気に関して「良い」「悪い」の「水準」を聞くのと、「良くなった」「悪くなった」の「方向性」を聞くのでは回答が異なるため、回答者にその違いを認識してもらうよう質問を設定した。景気実感を正確に把握するために、「水準」と「方向性」を同時に聞くことで、景気ウオッチャー調査が「当たる」統計になったと自負している。

 ―4月からフリーになった。

 フリーになり、note(https://note.com/akiyoshitakumori/)で景気動向などに関する投稿を始めた。また、複数のメディアに記事やリポートを執筆している。今後も、経済指標や「身近なデータ」から景気を読み解き、情報発信を続けていく。市場では、日銀が「2%の物価安定目標」を掲げて以来、消費者物価指数(CPI)を重視してきた。日銀は数年後、物価安定目標を達成し、金融政策の正常化に向かう可能性が高い。それに伴い、CPIなど物価以外の経済指標にも注目が戻るとみている。経済指標の予測調査は「闇夜のちょうちん」で、ニーズは少なくないだろう。(了)

 

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