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〔深読み米国株〕債務上限問題は買い材料…ナスダック100、今年最高値

2023年05月11日 16時00分

AFP=時事AFP=時事

 米連邦政府の債務上限をめぐってバイデン政権と野党共和党の対立が続いている。債務不履行(デフォルト)の織り込みを進める米債市場とは対照的に、デフォルト懸念のほかインフレ長期化、金融機関の経営不安など強力なマイナス材料を跳ね返して5月10日のナスダック100指数は今年最高値を更新した。買い場を渇望してきた投資家は多いとみられ、債務問題絡みで株価が急落しても「短期間のバーゲンセールに終わる」(外資系証券)との見方がある。

 政府債務についてイエレン財務長官は5月1日、上限が引き上げられなければ、6月1日にも財政資金が枯渇すると警告。今夏に満期を迎える米国債が値下がりし、債務不履行のヘッジ手段となる中期債などのCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)が上昇する一方、他年限の米国債にはリスク回避の買いが入り、デフォルトへの警戒感をうかがわせている。

 バイデン大統領は5月9日に上下両院の与野党幹部と債務上限について協議したが、議論は平行線をたどった。しかし、株式市場は与野党の歩み寄りに全く期待していなかったとみられ、翌10日は協議の不調を受けた長期債利回り低下を買い材料視してナスダック100指数が1.1%上昇し、S&P500指数も0.44%高としっかりとした値動きだった。デフォルトが現実味を増すにつれて長期金利が下がり、高PER銘柄への追い風が強まる構図と言える。

 米国株の日本語メディア「バロンズ・ダイジェスト」は5月10日付で「債務上限をめぐる攻防で注目すべき銘柄」と題する記事を掲載。米債務問題に伴うリスク回避策や同問題を逆手に取った取引戦略を紹介している。

 シティ・グループのチーフ米国株ストラテジストであるスコット・クロナート氏は長期債や金、日本円といった伝統的なヘッジ手段の有効性を説くとともに、株式では防衛関連銘柄に着目している。政府の支払い能力喪失で防衛産業は短期的な打撃が懸念されるうえ、歳出削減につながる政治的妥協が成立しても減収につながりかねない。しかし、ウクライナ問題など地政学上の緊張状態が国防予算を支えており、債務問題が解決すれば株価は上昇するというのがクロナート氏の描くシナリオだ。

 その上で、ロッキード・マーチン(LMT)をはじめとする政府向け売上高の多い企業10銘柄と関連ETF1銘柄をリストアップ。さらに、LMTのように政府向け売上高の多い企業と関係が深いパーカー・ハネフィン(PH)など5銘柄を取り上げた。これらの銘柄は債務上限問題が続く間はアンダーパフォームを強いられるが、議会が債務上限の引き上げを認めれば切り返すとクロナート氏は予想している。

 2024年秋に米大統領選挙を控え、金融市場は安易な妥協を避けたい政治家の人質になっている形だ。債務上限問題がどこかのタイミングで決着するにせよ、与野党が互いに相手の譲歩を期待したままデフォルトに陥れば、「事故」と言える。

 兜町の相場格言には「事故は買い、事件は売り」とある。仮に米国債のデフォルトで市場が混乱すれば、買い場となりそうだ。(編集委員・伊藤幸二)(了)

 

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