〔深読み米国株〕金融株はシリコンバレー銀ショックから1カ月
2023年04月12日 13時30分
シリコンバレ-銀行(SVB)破綻を受けてS&P500指数が直近安値(3808.86)に沈んでから、4月13日で1カ月を迎える。その後、S&P500は3月21日に4000の大台を回復し、3月31日には4100を超えるなど急反発し、株式市場は平静を取り戻した形だ。一方、銀行株は信用収縮への懸念とオーバーバンキング(銀行過多)という構造的な問題を抱えて値戻しの勢いは鈍いが、SVB破綻をきっかけに再編が進み、投資の機会が生まれる可能性がある。
SVBは3月10日に経営破綻し、連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に入った。その後の金融当局の対応は素早く、3月12日には財務省と連邦準備制度理事会(FRB)などがFDICによる破綻処理をめぐって「全預金者を完全に保護する」と表明。預金取り付けの拡散を防ぐ当局の強い姿勢から金融不安は沈静化に向かった。
S&P500は3月13日を底に反騰を開始したが、S&P500の業種別指数「金融」は底値形成が3月24日にずれ込んだ。4月11日終値は直近安値から5.4%高と、S&P500の7.9%高に後れを取っている。
金融株の値戻しに勢いが付かないのは信用収縮への懸念が最大の原因だろう。
ダラス連銀は3月21~29日に銀行事業環境調査を実施して「信用基準と条件は著しいタイト化が続いている」と足元の状況を分析し、「銀行業の見通しは引き続き悪化している」との見方を示した。米国銀行協会が4月6日発表した4~6月の与信条件指数も中立水準を大幅に下回る5.8と新型コロナ流行後で最低となり、今後の融資の引き締めを強く示唆した。
SMBC日興証券の野地慎チーフ為替・外債ストラテジストは4月12日付のリポートで、全米独立事業者協会が発表した3月の中小企業楽観度指数に焦点を当てた。証券会社などのリポート類で取り上げられることの少ない指標だが、米国の中堅・中小銀行の事業環境を推し測るには好適だ。3月は融資環境を示す指数が2012年12月以来の水準に低下し、野地氏は「信用収縮が始まりつつあることが示唆された」と指摘している。
米国株情報の日本語メディア「バロンズ・ダイジェスト」は4月10日、「銀行危機:買収ターゲットではなく買い手を探せ」と題する記事を掲載。銀行業界に「統合の波が押し寄せてくることが予想される」とした。
米国は世界最大の経済大国であるとともに銀行大国でもある。FDICによると米国に4135もの銀行があり、2位の英国(311)を大きく引き離している。1980年代の1万4000超から大幅に減ったが、オーバーバンキング解消は道半ばだ。ダラス連銀調査などの通りに銀行の事業環境が悪化していけば、今年は中堅・中小銀行の統廃合が加速していく公算が大きい。
企業買収を切り口として有望銘柄を探す際、買収される企業に目が向かうものだ。体力のある企業に救済されることで信用不安が後退するだけでなく、時価を上回るプレミアム付きの買収価格が提示されることが多いためだ。
バロンズ・ダイジェスト記事は、直近の株価下落で「多くの銀行が掘り出し物のように見えるため、どの銀行が買収のターゲットになるのかを見極めるのは難しい」と指摘。過去に買収の実績があり、柔軟なバランスシートを持つ銀行に注目するよう提案している。
同記事は、資産運用など金融サービスを展開するパイパー・サンドラーの調査チームを率いるマーク・フィッツギボン氏がピックアップしたMTバンクなど5銘柄を紹介した。いずれも配当利回りは3.5%を超え、地銀株に分散投資するSPDR S&PリージョナルバンキングETFを株価がアウトパフォームしているという。(編集委員・伊藤幸二)(了)