〔深読み米国株〕ITバブル後23年、揺れる長期投資神話=バフェット伝説に陰
2023年03月02日 15時30分
ナスダック総合指数は2000年のITバブル時のピークから3月10日で23年が経過する。一方、「長期投資の神様」とされてきたウォーレン・バフェット氏の2023年版「株主への手紙」は説明不足が色濃く、バフェット伝説の陰りがうかがえる。ナスダック総合指数はITバブル後のインフレ調整後の上昇率が小さいこともあり、長期投資は万能ではないようだ。
バフェット氏が率いる投資会社バークシャー・ハサウェイは2月25日付で株主への年次書簡を発行した。書簡はバイデン政権が自社株買いの税率を1%から4%へ引き上げようとすることを強く批判する一方、バークシャーの自社株買い減速に対する説明はなかった。92歳のバフェット氏の後継者や保険引き受け部門で昨年発生した巨額損失についてもコメントはなかった。
バロンズ・ダイジェストは2月28日、「バフェット氏の『株主への手紙』、なぜ『大きな失望』か」とする記事を掲載。足元の数多くの課題について年次書簡は説明不足だったと苦言を呈するとともに、30年前のコカ・コーラの投資を饒舌(じょうぜつ)に語ることへの違和感を指摘した。ESG(環境、社会、企業統治)全盛の昨今だが同記事は、砂糖入り飲料に依存する収益構造や世界的な肥満問題などを考えると、なぜコカ・コーラが良い投資先であり続けるのかについて年次書簡に説明はなく、バークシャー株が過去5年でも10年でも、S&P500指数に後れを取っているとした。
一方、バロンズ・ダイジェストは同日に「ハイテクバブルから23年、二つの教訓とは」とする記事を配信。長期投資万能論の落とし穴に注意を促し、「長期投資は必ずしも成功しない」などの教訓を導き出している。
ナスダック総合指数は2000年3月10日に付けた当時の最高値(5048.62)から暴落し、15年4月にようやく同水準を回復。インフレ調整後では20年3月時点でもピークを下回ったままだった。
サンタクララ大学のエドワード・マコーリー名誉教授はナスダック以外の多くの株価指数で実質リターンが年1%に達しなかったことが複数回あることを紹介し、投資家の期待と実現値は同じではないと警告している。
長期投資は資産運用の王道とされ、日本でも米国でも個人向けの運用指南書などで、短期売買を悪者扱いし、長期運用が絶対的に正しいかのような極端な解説さえ見受けられる。しかし、ネット証券の役員によれば、日本で長期投資を勧める風潮が一段と強まってきたのは2017年以降。日経平均が1996年の戻り高値2万2666円を超えたのがきっかけで、「戻り高値更新までは長期投資を語っても説得力がなかった」。このため、「日経平均やナスダック指数が2021年に付けた史上最高値を下回る期間が長引くにつれて、過度の長期投資万能論は消えていくだろう」という。
長期投資と短期短期のどちらがいいのかという神学論争の答えを急ぐ前に、「マーケットに絶対はない」という大原則を確認したい。(編集委員・伊藤幸二)(了)