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〔深読み米国株〕悩ましい有事対応=中国関連株売却も…ウクライナ侵攻1年

2023年02月24日 15時00分

EPA=時事EPA=時事

 ロシアによるウクライナ侵攻から2月24日で1年が経過し、株式市場では台湾をめぐる地政学リスクへの警戒感が強まっている。大方の投資家は「台湾有事の確率と持たざるリスクをてんびんにかけ、静観を決め込んでいる」(外資系証券)とみられるが、一部ではポートフォリオから中国関連銘柄を外す動きもある。

 市場で話題になったのは米投資ファンドのジェネレーション・インベストメント・マネジメントによる中国関連株売り。同ファンドは運用資産こそ404億ドル(2022年末、1ドル=130円換算で約5兆2500億円)と米国では決して大きくない。しかし、クリントン政権下で副大統領だったアル・ゴア氏が会長を務め、サステナブル投資でも積極的な問題提起を続けてきたことで独自の存在感を放っている。

 2月20日付「バロンズ・ダイジェスト」は「アル・ゴア氏、アリババとTSMC売る」と題する記事を掲載。同ファンドが2022年10~12月期にアリババ・グループ・ホールディングの持ち株を減らし、台湾積体電路製造(TSMC)の全株を売却する一方、米半導体大手テキサス・インスツルメンツ(TI)の保有高を5倍以上に増やしたことを取り上げている。同ファンドは1月に発送した投資家向けレターで、「半導体は(危機の訪れをいち早く知らせる)炭鉱のカナリヤだ」として、台湾についての「心配」をつづっている。

 もっとも、台湾有事を想定したポートフォリオ変更が市場の潮流となっている様子はうかがえない。

 最大の理由は中国の力強い経済成長だろう。国際通貨基金(IMF)は1月に発表した世界経済見通しで、中国の2023年の経済成長率予測を5.2%(22年10月予測は4.4%)に上方修正した。成長率予測は米国が1.4%、ユーロ圏が0.7%、日本が1.8%にとどまり、「中国経済成長の恩恵を受けないポートフォリオで市場平均を上回る運用成績を出すのは難しい」(国内運用会社)という。

 一方、中国関連株を外すことで生じるリスクもある。

 中国経済に詳しいニッセイ基礎研究所の三尾幸吉郎上席研究員は「中国が武力を行使し、経済制裁を科されたロシアのように西側諸国との関係を断ってまで台湾を手に入れようとする可能性は低そうだ」とみている。

 米国は現在、気球侵入問題などで中国との対立色を強めているが、三尾氏は「方針転換もあり得る」と指摘する。米国と中国が手を結べば、ロシアのウクライナ侵攻や北朝鮮の核問題が一気に片付く可能性があるためだ。

 三尾氏は「外交的利益のためなら米国は容易に豹変することを認識しておきたい」と話す。さらに、「中国がロシアとウクライナの戦争の仲介に成功すれば、米国の中国向けビジネスがこれまでより活発になる可能性がある」。そうなれば、ゴア氏の中国関連株外しは裏目に出ることになる。(編集委員・伊藤幸二)(了)

 

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