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FRBの敵はエネルギー省?…戦略石油備蓄の買いライン引き上げを警戒

2022年09月22日 11時30分

EPA=時事EPA=時事

 米連邦準備制度理事会(FRB)は9月21日の連邦公開市場委員会(FOMC)で3回連続の0.75%利上げを決定し、パウエルFRB議長は「インフレを大きく抑える水準まで金利を上げる必要がある」と発言。株式市場を下支えしていた利上げペース鈍化の期待を打ち砕き、同日のダウ工業株30種平均は一時3万0181.99ドルと3万ドルの大台割れに迫った。

 パウエル議長は「痛みのないインフレ対策があれば良いが、それは存在しない」と述べた。人為的に景気を冷え込ませることで総需要を抑制し、高すぎる物価上昇率を押し下げる決意を再び表明した形だ。

 足元の世界的な物価上昇はエネルギー価格の高騰の影響が大きい。このため、原油価格の下落がインフレを沈静化させ、FRBによる大幅利上げ路線の早期終了につながることになる。

 一方、FOMCに先立つ9月20日早朝(米国時間19日夜)、米国株の日本語メディア「バロンズ・ダイジェスト」は「原油、新たな底値は80ドルか」とする記事を掲載し、「政策立案者たちは原油価格が80ドル以上の水準にとどまることを望んでいるようだ」とするバンク・オブ・アメリカのフランシスコ・ブランチ氏による考察を紹介している。

 ブランチ氏は米国とOPECプラス(石油輸出国機構=OPEC加盟国とロシアなど非加盟国)が想定する北海ブレント原油の目標価格が「60ドルから80ドルに変わる」と予想している。

 米エネルギー省は現在、原油価格を抑えるために戦略石油備蓄を放出しているが、10月には終了し、市場は石油備蓄の補充開始時期と価格水準に関心を寄せている。バロンズ記事は「政府は掘削業者が立ち去らないように価格を高く保つ一方で、ガソリン価格の高騰を避けるという微妙なバランスを保つ必要がある」と指摘している。仮に80ドルが備蓄補充の買い水準であれば、原油価格下落を主役としたインフレ沈静化シナリオの実現性は決して高くないのではないか。

 FRBと米エネルギー省がインフレ対策の合同会議でも開けば良さそうなものだが、中央銀行の独立性維持の観点から現実味は乏しい。米国のインフレ対策は、互いに連絡を取れない2つの運転席でFRBと米エネルギー省がそれぞれ操縦する自動車に乗っているようなものかも知れない。

 21日の米国株式市場では、景気敏感株の多い米ダウが1.7%安の一方で、金利上昇に弱いフィラデルフィア半導体株指数(SOX)は0.97%安にとどまった。市場参加者の関心は、金利上昇による将来の成長期待を示すPER(株価収益率)低下から、強烈な金融引き締めによるEPS(1株当たり利益)減少に移ってきたようだ。

 しかし、原油価格の高止まりで利上げの到達点となる金利水準が現在の市場想定よりも上昇すれば、21日のSOXの底堅さは早計だったことになる。その場合、株価は再びPER低下を織り込んで下落し、半導体などIT株はその直撃を受ける可能性が高い。

 バロンズ・ダイジェストは「もし80ドルが新たな底値となれば、石油会社の投資家は今後何年にもわたって堅実なフリーキャッシュフローと増配を見込むことができるだろう」と予想。現地アナリストが推奨する銘柄として、エクソン・モービルなど石油会社6銘柄を挙げている。(編集委員・伊藤幸二)

 

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