暗号資産市場の立ち直り、WEB3普及がカギ=ブロックチェーン推進協・奥氏
2022年08月01日 12時24分
暗号資産市場は2022年前半、米金融引き締めなどを背景に相場が急落し、時価総額は7月末時点で約1兆ドルと、ピークをつけた昨年11月の約3分の1にまで落ち込んだ。市場規模が縮小した中、ブロックチェーン推進協会(BCCC)エバンジェリストの奥達男氏は、金融や商取引など多様な分野への応用により、社会に変革をもたらすと期待される、ブロックチェーン(分散型台帳)技術を基盤とした「WEB3.0」ビジネスの普及が、市場の出直りのカギになるとみている。主なやりとりは以下の通り。
―22年前半の暗号資産業界の概況は。
5月に韓国発の暗号資産「テラ」「ルナ」の相場が急落して以来、市場を取り巻く環境が急速に悪化し、「冬の時代が到来した」といわれている。具体的には、米暗号資産貸出業者の「セルシウス・ネットワーク」が破綻し、シンガポールの暗号資産ヘッジファンド「スリー・アローズ・キャピタル」も経営が行き詰まった。大手の暗号資産取引所では人員削減の動きが広がっている。DeFi(分散型金融)などでは多額のハッキング被害が相次いでおり、良くない流れが続いている。
もっとも、日本国内に目を向ければ、政府の骨太の方針でWEB3.0推進に向けた環境整備の検討が盛り込まれた。法定通貨などを裏付け資産に持つことで価格安定を図る「ステーブルコイン」についても、ルールを定めた改正資金決済法が成立するなど、悪い話ばかりではない。
―市場低迷のきっかけは。
直接的には、ドルとのペッグ(連動)をうたっていた「テラ」が暴落したことだろう。しかしその前段として、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ加速観測や新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)、ウクライナ問題に起因するインフレ懸念など不安心理が広がっていたことが、少なからず影響していると思う。
市場環境が整わない中、多くの資金が暗号資産市場へ流入したことも、(揺り戻しの)一因といえるだろう。
―冬の時代について、一部には08年に起きた「リーマン・ショック」になぞらえる向きもある。
暗号資産の相場が低迷しているのは確かだが、二つの要因により、そこまでの重大な事態に発展することはないと考えている。
第1に、暗号資産市場は14年のマウントゴックス事件や、17~18年のICO(イニシャル・コイン・オファリング=暗号資産を使った資金調達)のバブル崩壊により、2度の「冬の時代」を経験している。この経験が、市場やプレーヤーの耐性向上につながっている。
第2に、規模の拡大につれて市場への関心が高まっており、専門家やプレーヤー、コミュニティー、そしてFRBや欧州中央銀行(ECB)などが、市場の番人となって危機を早期に察知し、情報共有やコメント、警告などを発信できていることも危機抑制につながっている。
―長期的な見通しは。
どのような分野でも、黎明(れいめい)期から成熟期の過程で、浮き沈みや淘汰(とうた)は避けられないものだ。暗号資産市場だけが特別なわけではない。マーケットが低迷する中でも、暗号資産をめぐる新たな技術開発は続いている。
最も革新的なプロジェクトは、低迷期に生まれ、混乱を生き残ったものが本物になる。暗号資産はこれからも冬の時代を幾度か経験するかもしれないが、応用範囲の多様化など、成長を続ける中で、しっかりとしたシステムが形成されていくだろう。
―現状から立ち直るための手掛かりは。
WEB3.0関連では、NFT(非代替性トークン)のほかにも、暗号資産の技術基盤であるブロックチェーンを応用した、革新的プロジェクト開発が進行中だ。それらの利用拡大に伴って、数年後に暗号資産は再び勢いを取り戻す可能性が高いとみている。
例えば、世界の銀行口座を持てない人々に金融サービスを提供するDeFiや、組織運営に応用するDAO(分散型自律組織)、個人情報管理の応用を図るDID(分散型アイデンティティー)などは最も注目される領域だ。
仮想空間のメタバースと現実世界との橋渡しには、現実世界のデータをもとに複製した「デジタルツイン」が使われるだろう。これらのビジネスにおいては、改ざんが困難なブロックチェーン技術や、価値など示すトークンが、経済圏を形成する上で不可欠な存在として、浸透する可能性が高い。(了)