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〔インタビュー〕金が裏付けのジパングコイン、海外展開も=三井物産DCの加藤社長

2022年02月16日 11時22分

ジパングコインのロゴマーク(三井物産デジタルコモディティーズ提供)ジパングコインのロゴマーク(三井物産デジタルコモディティーズ提供)

 インフレや地政学的なリスクが世界的に高まりをみせる中、安全資産として金(ゴールド)が関心を集めている。金を裏付け資産とする暗号資産(仮想通貨)「ジパングコイン(ZPG)」の発行を17日から始める三井物産の子会社、三井物産デジタルコモディティーズ(MDC)の加藤次男社長は、時事通信社の取材に応じ、「ZPGを小売店でも決済に使えるようにした上で、将来は海外へ展開したい」と話す。

 ―「ジパングコイン」の名の由来は。

 イメージしたのは「日本の安全性」と「黄金の国・日本」。発行システムの基盤となるブロックチェーン(分散型台帳)も国産で、信頼性と利便性が高いのが特徴だ。代表的な暗号資産ビットコインの比喩として「デジタルゴールド」という言葉が使われるが、三井物産が裏付けとなる金を調達し、発行するZPGはまさにデジタルゴールドだ。

 ―ZPGをどう育てる。

 まずは、国内の暗号資産取引所で取り扱ってもらえるよう、各社と順次交渉を進めている。約500万口座の暗号資産投資家がZPGを取引できるようになる。投資目的だけでなく、コンビニでの支払いや、企業ポイントサービスとの交換など、投資家以外の人々にも使っていただけるよう、利用環境を整える。将来は海外へビジネスも展開したい。エネルギーや排出権など、他のコモディティーなどについても、顧客のニーズがあれば同様のサービスを提供したい。

 ―ZPGの目標規模は。

 国内暗号資産業者の預かり資産規模を約1.5兆円と見積もると、1割で1500億円だ。ホワイトペーパーで示した予定発行額「初年度20億円、3年後120億円」は、意外と早く達成が可能かもしれない。

 ―金ETF(上場投資信託)との違いは。

 金ETFは保有時に運用管理費用(信託報酬)がかかるのと、長期保有すると原資産とETFの価格が乖離(かいり)する。ZPGはどちらかというと指数連動証券(ETN)の性質に近く、金現物のリースによる運用益などによって、投資家の保有コストをゼロにした点が特徴。金融機関の債務保証が付いており、取引も24時間365日いつでも可能だ。

 ◇金市場の拡大に協力、当局とも慎重に準備

 ―ZPGと公設取引所の金先物との競合は。

 大口投資家は取引所志向が強く、今後もすみ分けになるとみている。日本取引所グループ(JPX)で金の先物取引を手掛ける大阪取引所とは競合ではなく、日本の金市場拡大のために協力したい。取引単位の点でも、ZPGとJPX金先物は、1グラム当たり円で一緒だ。将来は(ヘッジなどで)JPX金先物市場の活用も検討したい。1.5兆円規模の暗号資産投資家が、ZPGをきっかけに金投資に関心を持ち、(公設の)先物市場に資金が流入するといった効果も望めるだろう。

 ―米メタ(旧フェイスブック)主導のステーブルコイン構想は頓挫した。

 メタのディエム(旧リブラ)は、既存のルールを打ち破ろうとして断念に追い込まれた。当局を甘くみたのが原因だろう。その点、三井物産がZPG構想を進める上で、特に注意を払ったのが当局との調整だ。金融庁とは2年以上、慎重に相談を重ねてようやく事業開始に至った。その過程では、他の関連省庁との調整もあったが、総じて国を挙げてフィンテック事業を推進しようとする姿勢が感じられた。

 デジタル決済手段は多様な規格が生まれ、乱立ともいっていい状態だが、健全な競争を経て、日本のキャッシュレス決済が良い方向に進化すると期待している。利便性を考えると、ZPGを含む暗号資産は決済手段として優れた特性があり、消費者に広く使っていただけるようサービスを拡充していきたい。

 ―大手商社がリテールの金取引に進出する意義は。

 商社ビジネスの基本は、顧客のフローを元に自己リスクでトレーディングを行い、収益を上げることだ。取引量の増大によってトレーディング収益拡大を目指すという点では、リテールも企業も違いはない。これまでコスト的に難しく、手付かずだった個人投資家へのアクセスを、ブロックチェーンが可能にしてくれた。(了)

 

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