〔特派員リポート〕中国企業、米国上場ラッシュ=バイデン政権、制裁で対抗
2021年06月10日 12時41分
中国企業が米株式市場に上場する動きが加速している。今年1~4月の新規株式公開(IPO)の規模は期間中で過去最高を記録した。バイデン米政権は中国を「最大の競争相手」と位置付けて締め付けを強めているが、新型コロナウイルス危機からの脱却を急ぐ中国企業の資金調達ニーズは旺盛で、米中両国のせめぎ合いが続いている。
◇資金調達は8倍に
新型コロナで拍車が掛かった米中の対立は、資本市場にまで波及している。米国は米上場の中国企業が会計検査や情報開示に消極的なことを問題視しており、厳格化した会計ルールを3年連続で満たさない外国企業を上場廃止にする「外国企業説明責任法」が昨年12月に議会で成立した。取締役会の中国共産党員の氏名開示を義務付けるなど、中国を標的にした法律だ。
バイデン政権はトランプ前政権の対中強硬路線を引き継ぎ、新規則施行へ着々と準備を進めている。米上場企業会計監視委員会(PCAOB)が今年5月に発表した細則によると、米上場の外国企業の多くが2021年度から監視対象となる。「検査拒否が3年続けば上場廃止」の罰則が適用されるのは、早くて24年になりそうだ。
中国企業は罰則適用までを「事実上の猶予期間」(通商弁護士)とみなし、米上場による資金調達を急いでいる。米民間調査会社は、中国や香港の企業による今年1~4月のIPO規模は約66億ドル(約7200億円)と期間中で最高を記録したと分析。前年同期比で8倍前後に達した。
上場する中国企業の数も増加している。米議会の諮問機関である米中経済安全保障調査委員会(USCC)の報告書によると、米国の主要証券取引所に上場する中国企業は5月5日時点で248社、時価総額は2兆1000億ドル(約230兆円)に上る。昨年10月2日時点では217社、2兆2000億ドル(約240兆円)だった。
◇米政権・議会、「安保の脅威」警戒
過去7カ月間で米上場の中国企業が増える一方、時価総額が1000億ドル減少した背景には、昨年10月以降に17社が上場廃止に追い込まれたことがあるという。トランプ前政権が中国軍関連企業に対する投資禁止措置を導入したためで、中国移動(チャイナ・モバイル)、中国聯通(チャイナ・ユニコム)、中国電信(チャイナ・テレコム)の3大国有通信会社が撤退を迫られた。
米議会は中国企業の上場加速が「国家安全保障上の脅威」をもたらすと警戒を強めている。USCCは報告書に「中国企業への投資は、検閲や監視に用いられる技術の開発や軍事活動の支援につながる可能性がある」と明記。米新興市場ナスダック上場企業で中国版ツイッターと呼ばれる微博(ウェイボー)を名指しし、「市民の抗議活動を監視するために利用されている」と批判した。
こうした懸念を踏まえ、バイデン大統領は6月3日、中国企業に対する投資禁止措置を強化する大統領令を発表した。対象企業のリストを計59社まで10社余り拡大。中国の防衛関連企業だけでなく、人権侵害を助長しかねない「監視技術を手掛ける企業」を選定基準に加えた。「近い将来、企業の追加もあり得る」(政権幹部)と警告しており、経済安全保障をめぐる米中対立に終わりは見えない。(ワシントン支局 田中有美)