〔欧州週間経済動向〕英、通関手続き半年猶予=混乱回避は未知数―EU離脱
2020年07月06日 07時18分
【ロンドン時事】1月末に欧州連合(EU)を離脱した英国のジョンソン政権が、EUからの輸入品に関する税関への申告や、通関当局による審査・検査の大部分を年末から半年間にわたって猶予すると表明した。EUとの自由貿易協定(FTA)交渉が不調に終わっても、英EU間の物流に大きな混乱が生じないようにするための特例措置だが、EU側が同様の対応を行う気配はなく、どれほどの効果があるかは未知数だ。
◇年末で状況は一変
英国はEUを離脱したものの、年末までの「移行期間」中はEUの関税同盟と単一市場に残留した状態が続く。EUが構築した巨大自由貿易圏の一員という従来の立場に変わりはなく、英国とEU加盟国間の貿易は、輸出入時の込み入った通関手続きが基本的に不要だ。
しかし、英時間12月31日午後11時に移行期間が終了すると、この状況は一変する。英国はEUからの「完全離脱」を果たし、EUの関税同盟と単一市場から脱退。EUにとって英国は日本と同じ「第三国」の一つとなり、英EU間の物品貿易は原則として、輸出入時の申告・検査が不可欠になる。
問題は、どの程度の規模の申告や審査・検査を要するかが現時点で分からない点だ。移行期間終了と同時にFTAが発効すれば、協定の内容次第で通関手続きの一部は省略される可能性がある。半面、協定発効が間に合わなければ、英EU間の貿易の自由度は世界貿易機関(WTO)加盟国間の「最恵国待遇」条件に準じた内容に限定され、日EU間以上に厳格な申告や検査が求められる。英EUは早期妥結に向けてFTA交渉を急いでいるが、懸案をめぐる話し合いは難航しており、今後の行方は予断を許さない。
◇人材育成に遅れ
ジョンソン政権はこうした事態を踏まえ、EUとのFTAが年末に発効しようとしまいと、移行期間終了から来年6月まで、EUからの輸入品に関する関税の支払いを最長半年間にわたって猶予することとした。また、たばこ・アルコールを含む統制品や有毒の化学物質など一部例外を除いて、輸入業者による税関申告の提出についても最長半年の猶予を認めた。
さらに、畜産物や牛乳、ハチミツなど「動物由来食品(POAO)」の輸入に関しては、検疫の前提となる輸入の事前通知を3月まで免除。その上で、4月から6月の間は現物検査やサンプル検査の実施回数を減らす。結局、英国による対EUの輸入管理がフル稼働するのは来年7月からだ。
特別措置の背景には、政権による通関手続き従事者の育成が遅れているという事情がある。
英国にとって、EUとの取引は全ての貿易の約半分を占める。輸入業者らが来年から対EU貿易に関する書類を作成するには、新たに5万人の専門家が必要になる計算だが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあって、一説には今年に入って4月までにオンラインの養成講座を受講したのは300人余り。昨年1年間でも約1300人の育成にとどまっているため、目標達成は絶望的という。専門家育成に3400万ポンド(約45億円)を投じたジョンソン政権も、実際にどれだけの新規人材を確保できたのかは明らかにしていない。
◇輸出システムに不安
輸入の混乱は何とか緩和できたとしても、EU向けの輸出となると不安が拭えない。EUには英国のように猶予措置を講じる考えがないからだ。欧州委員会のシェフコビッチ副委員長は「EUは単一市場および関税同盟の一体性を引き続き完全に保護していく」と強調。英国のために税関申告を多めに見たり、審査・検査を甘くするということはないと明言している。当たり前の話だが、インボイスなどの輸出書類がそろっていなければ、EU側で英国からの物品を輸入する際に支障を来すことになる。
加えて英国は、輸出申告を事前に通関当局に提出するためのITシステムが試作段階。既に万全の態勢となっているフランスのシステムとは対照的に、まだ業者らを交えた運用試験すら実施されていないという。システムの導入が遅れるようなことになれば、来年からの対EU貿易に深刻な悪影響を及ぼすのは必至だ。(了)