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〔財金レーダー〕日本経済、本当に拡大局面?=景気動向指数、コロナ禍の実態とずれ

2021年05月27日 14時29分

緊急事態宣言による時短要請に従い、午後8時で閉店した飲食店が並ぶ繁華街=3月12日夜、東京都渋谷区緊急事態宣言による時短要請に従い、午後8時で閉店した飲食店が並ぶ繁華街=3月12日夜、東京都渋谷区

 内閣府が毎月公表する景気動向指数で、景気の現状を示す一致指数の改善基調が続いている。3月指標(5月12日公表)では基調判断が「改善」に上方修正され、日本の景気は拡大局面にあるとの暫定的な見方が示された。新型コロナウイルス感染拡大で1~3月期の国内総生産(GDP)速報値が3四半期ぶりのマイナス成長に陥ったのと対照的だ。一致指数は製造業関連の動きに大きく影響されるため、業種により業績に明暗が分かれる「K字型回復」と呼ばれる経済実態を捉え切れていない問題が生じている。

 ◇反映されないサービス消費

 景気動向指数は景気全体の現状把握や将来の予測に役立てることを目的とした指標で、生産や雇用など景気に敏感に反応する指標の動きを統合して算出する。基調判断は「改善」「足踏み」「局面変化」「悪化」「下げ止まり」など大まかに5段階に分けられ、一致指数の動きに沿って機械的に当てはめる。景気最悪期の「谷」や、拡大の頂点である「山」の正式判定は、景気動向指数に基づいて、有識者で構成する内閣府の景気動向指数研究会が事後的に行う。

 一致指数は、1度目の緊急事態宣言が発令された昨年春に急落した後、持ち直し傾向が続いてきた。2度目の宣言が発令された今年1月には、基調判断を「下げ止まり」から「上方への局面変化」に上方修正。2018年11月以降続いた景気後退局面が過去数カ月前に「谷」を付け、拡大局面に転じた可能性があると暫定的に示された。さらに、緊急宣言が延長される中で3月には「改善」へ上方修正。サービス消費を中心に打撃が広がる経済の実態と乖離(かいり)した「奇妙な現象」(民間エコノミスト)が続く結果になった。

 こうした乖離が生じるのは、一致指数の構成自体に問題がある。指数を構成する10系列のうち5系列は、鉱工業生産指数や耐久消費財出荷指数、輸出数量指数など製造業の動向に大きく左右される指標で占める。一方、消費動向については、小売業と卸売業の商業販売額の2系列が採用されているが、モノ消費の動向を捉えるだけで、飲食や宿泊などサービス消費の動きはまったく反映できていないのが現状だ。

 ◇内閣府、指数見直しに着手

 米国を中心とする海外経済の回復を背景に製造業の生産活動の持ち直しが続き、今後も一致指数の改善基調が維持されると予想されている。一方、米欧主要国に比べてワクチン接種の遅れが目立つ中、3度目の緊急宣言発令でサービス消費は一段と落ち込み、4~6月期のGDPは2期連続のマイナス成長に陥るとの見方も台頭。景気動向指数と実体経済とのずれはますます広がりそうな状況だ。

 問題は内閣府も強く認識しており、指数の見直しを進める方針を表明している。第2次安倍政権が発足した12年12月を起点とする拡大局面が18年10月に「山」を付けたと認定した昨年7月の景気動向指数研究会でも指数見直しをめぐって活発に議論。有識者からは「製造業中心の景気動向指数を、よりサービス業の分野まで広げていくのが適切だ」「指数への批判の中心はGDPと整合的ではないということだ」などの意見が出た。

 ただ、一致指数の構成系列に製造業関連が多いのは、生産や輸出の動きが景気に敏感に反応するからだ。一方、経済全体の中で比重が高まっているとはいえ、通常のサービス消費は好不況に影響されずに振れが小さいという特性がある。現在はコロナ禍の打撃が飲食や宿泊など対面型サービス業に集中する異常事態にある。

 第一生命経済研究所の新家義貴主席エコノミストは「一致指数の中でサービス消費関連の比重を高めると、逆に景気循環の動きを敏感に捉えることができなくなる恐れも出てくる」と指数見直しの難しさを指摘する。(了)(経済部・宮木建一郎)

 

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