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NY原油、年内60~80ドル=JDSC・大場氏

2021年03月22日 08時55分

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 ニューヨーク原油(WTI)先物相場は上昇基調が続いており、4月物は今月8日に一時1バレル=67.98ドルと、中心限月の継続足で約2年5カ月ぶりの高値を付けた。人工知能(AI)を活用したサービスを提供するJDSC(東京)フェローで、エネルギーアナリストの大場紀章氏は「石油輸出国機構(OPEC)プラスの協調減産で原油在庫の減少傾向が続く一方、米シェールオイルの生産量はそれほど増えそうにない」と指摘。年内は堅調な地合いが続き、60~80ドルのレンジになると予想している。

 ―原油価格の上昇トレンドが続いている。

 OPECプラスが4月以降も協調減産幅をほぼ据え置くことを決め、縮小を見送ったことが要因として一番大きい。OPECプラスは、原油価格が70ドル近くになっても増産しない、という強いメッセージを発した。原油在庫は減少傾向にあり、トータルでの供給不足が続いている。年後半にかけてもこの流れが続くというのが、市場関係者の大半の見通しになっている。

 ―市場では依然強気の見方が多い。

 昨年は新型コロナウイルス感染拡大や協調減産協議の決裂などの後、WTI先物はマイナス価格に陥る場面もあったが、現在は既にコロナが大きな問題になる前に付けた昨年の高値を抜けてきている。この程度の価格になると、過去の統計だけ見れば、米シェールオイルの生産が従来の水準まで戻ってもおかしくないが、全くそうなっていない。これが強気の理由だろう。

 ―米シェールオイルの生産量が戻らないのはなぜか。

 生産量は、2019年11月をピークに頭打ちになっている。ここ数年、投資が減り続け、生産性の向上が鈍化していた。コロナ前から、シェールオイル産業に投資していたファンドや金融機関などは、成長よりも利益を求めるようになり、利益率の高い案件でなければ投資しないトレンドになっていた。この結果、多くのシェール関連企業は、負債が積み上がり、キャッシュフローが生まれにくくなり、資金調達が厳しくなっている。

 米国内の石油掘削リグ稼働数は、足元では原油価格の上昇に伴って増えてはいるものの、19年の最高時の3分の1程度にとどまっている。このため、新規に生産される量はそれほど大きくは拡大しないだろう。

 ―今後の需要動向は。

 米国の石油全体の需要は、19年までの平均値の95%ぐらいまで回復している。このうち、ガソリンやディーゼル油は85%ぐらいと、ほぼコロナ前まで戻っており、今後の伸びる余地はあまり大きくないと考えられる。

 一方、ジェット燃料は65%ぐらいまでしか戻っていない。石油需要の減少分の8割ぐらいは、航空需要が回復していないことに起因していると言える。このため、国内線を中心とした航空需要がどこまで戻るかが、石油全体の需要回復に影響する大きなポイントになる。ただ、コロナワクチンの接種率がいつ、どの程度まで向上するかが不透明なこともあり、航空需要が回復するタイミングは予想しづらい。

 ◇イラン核合意問題が波乱要因

 ―年末までの価格はどうなるか。

 やはり、OPECプラスによる協調減産に関する判断が当面のポイントになる。恐らく、70ドルぐらいの水準であれば高過ぎないという判断をし、現状の減産幅を維持するだろう。80ドル、90ドルと上がってくれば、減産緩和への圧力がより強くなると見込まれ、減産幅をどの程度縮小するかが焦点になる。

 サウジアラビアの独自減産による影響も大きい。サウジは、OPECプラス全体では合意できないかもしれないという不確実性に応えるために単独行動を取っているとみられるが、最近は価格を維持したり引き上げたりするためのサプライズを狙っている感も強い。

 こうしたことから、上値でポジションを取っている市場参加者が多いと想像でき、年内は60~80ドルのレンジで推移するのではないか。

 ―波乱要因は。

 イラン核合意問題だ。イランの現政権は、今年6月の大統領選前に経済制裁の緩和を得られないと、選挙での勝利は厳しい。ドイツなどが仲介し、段階的に緩和するとの見方は有力だが、最近は米国などとの対決姿勢を強めており、先行きは不透明だ。

 米バイデン政権にとって、対イラン政策の優先順位は必ずしも高くない。制裁緩和が実現せず、イランの大統領選で強硬派が当選すれば、さらに欧米との対立が激化し、原油輸出の解禁も難しくなることが予想される。この場合は、原油相場の上昇要因になる。一方、協議が進展して原油禁輸が解除されるような展開になれば、下落リスクになる。ただ、年内はこの確率は高くないと考えている。

 このほか、中東地域で軍事衝突が起これば、原油価格が大きく上昇する可能性もある。(了)

 

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