〔特派員リポート〕「Go Big」は善か悪か=米コロナ対策にやり過ぎ論
2021年02月17日 10時52分
バイデン米政権が目指す新型コロナウイルス危機を受けた大型経済対策に「やり過ぎ」との懸念が出ている。バイデン大統領は「Go Big(大胆にやれ)」と意に介さないが、景気回復に善か悪なのかをめぐり激しい論争に発展している。
◇インフレ警告
「長く経験しなかったインフレが起きドルの価値と金融安定が損なわれる」。議論の火付け役はクリントン政権で財務長官を務めたサマーズ米ハーバード大教授。ワシントン・ポスト紙への寄稿でバイデン氏が訴える1兆9000億ドル(約200兆円)の経済対策が巨額過ぎると断じた。
米国のコロナ経済対策は累計で4兆ドル規模に達している。1人最大1400ドル(約15万円)の現金給付を含む今回の追加策が成立すれば、国内総生産(GDP)の3割に迫る。議会予算局によると、米経済の規模が潜在的な大きさを下回っていることを示す「需給ギャップ」は2021年で推計4210億ドル。追加策はこの不足分を埋めても大き過ぎ、悪影響を招きかねないというのがサマーズ氏の主張だ。
問題提起に対し、ブランチャード元国際通貨基金(IMF)チーフエコノミスト、オバマ政権で大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務めたファーマン米ハーバード大教授らが「経済が深刻な打撃を受け逆効果だ」と同調するなど、専門家の間にも憂慮する声は多い。
1月の雇用者数は前月から約5万人の増加にとどまり、コロナ危機で失業した人は今も1000万人近くに上る。労働市場の改善は長い道のりになるのは確かだが、20年12月の減少から増加に転じるなど経済は悲観一色でもない。景気はワクチン普及とともに強くなるとみられている。
だがバイデン氏は、コロナ対策は「やり過ぎではなく、十分にやらないことがリスクだ」と反論する。副大統領だった09年の金融危機対応では、経済対策が約8000億ドルと小粒で景気回復が遅れたとの思いが強い。イエレン財務長官も「インフレリスクには対応手段がある」と懸念を一蹴する。
◇選挙対策?
バイデン政権が描く成長戦略は4年間で2兆ドルの環境インフラ投資を含め、10年間で11兆ドル規模と試算されている。財源の一部は富裕層や企業への増税を当て込むが、サマーズ氏は、本来必要なインフラ投資を行う前に、巨額のコロナ経済対策を賄うための政府債務拡大や増税は「政治的に可能なのか」と警告している。
「支持率を上げる最も効果的な方法は現金還付(給付)ですよ」。トランプ前大統領がコロナ対策の現金給付で、自身の名前が印刷された小切手の配布にこだわっていた際、以前担当した日本の財務省幹部の言葉を思い出した。
バイデン氏が訴える経済対策が必要なのは確かだが、その巨額さ故に野党共和党にバラマキ批判が根強い。バイデン氏や与党民主党が「Go Big」で支持率アップ、ひいては2年後の中間選挙対策を意識していないはずがない―とは言い過ぎだろうか。(ワシントン支局 近藤真幸)