〔財金レーダー〕コロナ対策、未曽有の歳出膨張=財政健全化目標「ほぼ不可能」に
2020年06月04日 14時08分
新型コロナウイルスによる政府の大規模な経済対策で、国の財政悪化がより深刻になった。2020年度の歳出規模は、過去最大だった前年度の1.5倍を超え、未曽有の水準となる。「100年に1度の危機」に対し、財政支出が膨らむのはやむを得ない。だが、財政規律の乱れは、コロナ収束後の大きな課題として残る。政府が25年度に目指す国・地方の基礎的財政収支(PB)黒字化は「ほぼ不可能な状況」(財務省幹部)となった。
◇「たがが外れた」
「空前絶後の規模、世界最大の対策で日本経済を守り抜く」。20年度第2次補正予算案の策定を目前に控えた5月25日、安倍晋三首相は記者会見で豪語した。4月に成立した1次補正と合わせて対策の総合的な事業規模は200兆円超、国内総生産(GDP)の約4割にも上ると強調した。
対策の事業規模には、民間融資や財政投融資なども含むため、国の歳出規模は200兆円のうちの一部にとどまる。それでも、一般会計歳出は1次補正で25.7兆円、2次補正では31.9兆円と、補正として過去最高額を立て続けに更新。医療体制の強化や雇用の下支え、企業の資金繰り支援に財政措置を講じた。また、1次補正では全国民への10万円給付に12.9兆円、2次補正では今後のコロナ対応に備えた予備費に10兆円など巨額資金を投じた。
この結果、20年度の一般会計歳出は、当初予算(102.7兆円)と合わせて160.3兆円になる。過去最大だった19年度の104.7兆円(補正後ベース)から50%超も上昇。「完全に財政のたがが外れてしまった」(財務省幹部)予算となる。
また、1次・2次補正の一般会計歳出計57.6兆円の財源は全て国債発行で賄う。20年度の国債発行額は90.2兆円に膨れ上がり、一般会計総額(160.3兆円)に占める国債依存度は56.3%。リーマン・ショック後の09年度の水準を超えて過去最高となる。
20年度末の国債発行残高見込みは964兆円。1年間の税収の約15年分に相当する額まで積み上がり、将来世代に対して重い負担となる。今月1日の財政制度等審議会の分科会では、コロナ収束後に抜本的な財政再建策を求める意見が相次いだ。
◇さらに指標悪化も
政府は20年度の国の税収に関して、消費税率10%への引き上げなどにより過去最高の63.5兆円を見込んでいる。ただ、コロナ禍で企業業績の悪化が見込まれることに加え、減収事業者への納税猶予もあり「税収が落ちることも計算に入れておかないといけない」(麻生太郎財務相)状況。20年度の税収は50兆円程度にまで落ち込むとの試算も出ている。
税収が落ち込めば、その分の財源を穴埋めするためさらに国債発行額が増える可能性が極めて高い。国債発行額や国債依存度などの指標がさらに悪化することは必至の情勢だ。
一方、25年度のPB黒字化に関しては、目標の撤回または先延ばしが「時間の問題」となっている。国のPB赤字は2次補正段階で66.1兆円で、20年度当初の9.2兆円から急拡大。「この状況で目標達成できると考えるのは非現実的」(政府関係者)という。
もっとも、財政健全化目標をめぐっては、コロナ以前から達成が厳しいとの見方が多かった。既に1月時点で、今後の高い経済成長を見込んでも25年度のPBは黒字化しないとの内閣府試算が出ていた。戦後最長の景気拡大期とされた時期に財政再建できず、健全化目標達成への本気度に疑念を持たれていた安倍政権。財政規律を重視する自民党議員の1人は「コロナ問題で、達成できないことへの良い口実ができたのではないか」と皮肉った。(経済部・平野壮生)(了)